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サーマルリレー|特定技能 ビルクリーニング

植村 貴昭
この内容を書いた専門家
元審査官・弁理士
行政書士(取次資格有)
登録支援機関代表

サーマルリレーと電動機保護

サーマルリレー(thermal relay)とは、
バイメタルとヒートエレメントが内蔵された保護継電器です。
熱によって動作するため「熱動継電器」とも呼ばれています。

電動機に電源を供給する動力制御盤を計画する場合、
電動機の保護は「配線用遮断器」だけでなく、サーマルリレーを組み合わせるのが一般的です。

配線用遮断器は、モーターの温度上昇を検出するのは不向きであり、
電動機専用のモーターブレーカーを設けた場合であっても、高い信頼性が確保出来ません。

電路の短絡保護を配線用遮断器の役目とし、
電動機の温度異常はサーマルリレーで間違いなく検出し、
マグネットコンタクターを動作させて過負荷を遮断するのが、
一般的な動力盤の設計手法となります。電動機の保護とサーマルリレー

電動機の過負荷保護

誘導電動機を設計する場合、過負荷運転に対して保護しなければなりません。
電動機が過負荷運転となれば、巻線が温度上昇を起こします。
電動機の回転子が抵抗によって拘束されることが、異常過熱の原因となります。

厨房排気ファンでは、ファンに油脂の汚れが付着し
回転に負荷を与えるほどになった場合、
回転子に拘束を与えられた状態になり、異常発熱を起こします。

発熱を放置すると、巻線の温度が許容範囲を超過し絶縁不良になり、
電動機所定の寿命を満足しません。
発熱が大き過ぎれば、電動機の主要機器が損傷することも考えられます。

電動機の上位側に設置する配線用遮断器は、
電路が短絡した場合に保護するための役割を持つものであり、
始動電流で動作しないように選定するので、電動機の過負荷に対しては保護出来ません。

サーマルリレーによる電路保護

電動機を保護するためには、過負荷による発熱を保護するために、
電動機を設置する場合、サーマルリレーを電路に設けます。

サーマルリレーは熱動継電器とも呼ばれ、回転機温度スイッチ・継電器、
または過負荷継電器の総称です。
回転機の温度が設定値以上になった際に動作するもので、
異常電流の発生による発熱を検出すると動作し、電磁接触器を動作させて電路を遮断し、
保護を行います。

黄銅とアンバーのように、2枚の膨張率が違う金属を張り合わせたバイメタルが使用され、
温度の上昇によって黄銅が伸縮し、湾曲し接触することを利用しています。

サーマルリレーによる保護は、ヒートエレメントに電流が流れることによる
熱検出を行っているため、
電動機の巻線温度上昇と電流の増加が相関関係になければ使用出来ません。

間欠運転を行う電動機や、負荷を変動させて使用する電動機では、
巻線の温度上昇と電流の大きさに相関関係が薄く、適正な保護が出来ない恐れがあります。

サーマルリレーは過負荷や電動機の拘束、電動機結線の欠相から保護するための装置であり、
短絡や地絡を保護する機能は持っていません。
必ず、配線用遮断器や漏電遮断器と組み合わせて使用されます。

過負荷要素の保護

サーマルリレーの最も標準的な保護すべき要素として、過負荷があります。
過負荷の原因は多岐に渡っており、負荷が重たくなった場合や短絡事故により、
規定よりも過大な電流が流れた場合に動作します。
過負荷のまま運転を続けると、モーターが高温となり焼損事故となるため、
直ちに回路を遮断しなければなりません。

電動機の保護を検討する場合、
運転開始時に発生する大きな始動電流を考慮しなければなりません。
電動機の始動時には、定格電流の5~7倍という大電流が数秒間流れるので、
この電流で過負荷要素が働いてしまうと、モーターの運転を開始出来ません。
これに対応するため、過負荷が何秒継続するかを同時に検出し、
事故による過負荷なのか、始動電流なのかを判断します。

電動機は、始動時に必ず始動電流による一定の過負荷を受けることが想定されており、
これによって機器が焼損することはありません。
サーマルリレーの設定は、この始動電流の発生時間まで動作しないように整定します。

定格電流~105%では動作せず、過負荷120%~125%で動作するように整定します。
動作時間の設定は、始動時の保護と同様に一定時間の過負荷を許容する設定と、
始動時以外は瞬時に遮断する設定がありますが、
対象とする負荷に応じて選択することが望まれます。

欠相要素の保護

電動機は三相電源で動作する電気機器でありますが、
このうちの一相が何らかの理由で失われた場合、欠相運転が発生します。
欠相状態では、三相電源が単相電源と同様の位相となるため、
回転磁界を生み出せず、電動機は回転を始められません。

停止時に欠相状態となった電動機は運転を開始出来ず、
始動電流がいつまでも流れ続けることにより過負荷を発生させます。

過負荷要素の保護がなされていれば、欠相による過負荷を保護することは出来ますが、
結線の緩みや断線など、電動機が運転中に欠相が発生した場合、
軽負荷状態であれば回転磁界が発生しなくても、
単相電動機として回転を継続してしまうことがあります。

デルタ結線の電動機であれば過負荷要素で保護出来ますが、
スター結線のモーター外部欠相が発生した場合には、
過負荷要素が働かずに巻線を焼損してしまう可能性があります。

欠相状態では過負荷の発生だけでなく、
電線の緩みや断線・外れによる原因であれば
そこから地絡や感電事故へ波及することが考えられます。

欠相状態で軽負荷運転を継続していては、
いつ停止するかも分からない不安定な設備となります。
欠相状態を早期に検出し、改善を行うためには、
欠相要素をサーマルリレーに含むことが望まれます。

逆相(反相)要素の保護

逆相(反相)要素は、電動機の相順を逆にしてしまうことによる
逆回転を防止するための要素です。

ファンやポンプなどが主体となる建築設備分野において、
電動機が逆に回転して適正品質を確保できないため、
その逆回転を防止するために用いられます。

しかし電動機は設置時に相回転を検査し、適正な方向に回転することを確認します。
モーターが運転中に突然逆回転を引き起こすことはまず考えられないため、
逆相(反相)要素は必ずしも付与することはありません。

逆回転が施工中であっても許容出来ない場合や、
移動用電動機など結線の取り外しが頻繫に行われる電源系統であれば、
この要素を付与する意義があります。

サーマルリレーの選定・設定

サーマルリレーを計画する場合、電動機の容量と電流値に注意が必要です。
サーマルリレーの電流設定値はシビアであり、
設計変更等でファンサイズが変わった場合、
サーマルリレーも変更しなければミストリップの原因となります。

下位のファンを保護する電流設定のサーマルリレーを設置していた場合、
電源を投入するたびにサーマルリレーが動作し、
逆に上位のサーマルリレーを設置していれば、
動作しないため焼損事故につながる恐れがあります。

電動機の全負荷電流に整定されたサーマルリレーなら、
汎用電動機の保護が可能ですが、始動時間の長い大型のファンでは、
始動電流が思いがけず長時間続くことによるミストリップの可能性もあり、
逆に整定電流値を上げてしまうと、始動出来ても、過負荷保護が不能となります。

その場合は、長限時形のサーマルリレーを採用するなど、
保護協調を考慮した計画を行います。

サーマルリレーの一般的整定として、電動機定格電流の105%で不動作、
120%で動作する設定とし、
電動機拘束による大電流発生は2~30秒で保護動作することにすれば、
二次側に設置した電動機を安全に保護出来ます。

ファンやブロワなど、始動時間が長い大型電動機を保護する場合、
始動電流が10秒程も続く場合があり、
通常のサーマルリレーでは不要動作をしてしまうことがあります。
負荷をサーマルリレーで保護する場合は、飽和リアクトル付サーマルリレーなど、
動作時間の長いサーマルリレーを選定すべきでしょう。

ホットスタートとコールドスタートの動作特性の違い

ホットスタートとは、サーマルリレーに不動作電流を2時間通電し、
電流を流し始めるまでの時間特性を示します。
運転している電動機や、再起動時に温度異常を発生した場合は、ホットスタートに該当します。
ホットスタート時はサーマルリレーが通電により温まっているため、
動作範囲の電流倍数が低くなり感度が高くなります。

コールドスタートとは、サーマルリレーのヒーター温度が周囲温度と同じ状態で、
電流を流し始めてから動作するまでの時間特性を示します。
サーマルリレーが冷えているため、動作はホットスタートよりも緩慢です。
モーター始動時に適用する特性です。

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