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インバータと高調波|特定技能 ビルクリーニング

植村 貴昭
この内容を書いた専門家
元審査官・弁理士
行政書士(取次資格有)
登録支援機関代表

インバータと高調波

 インバータは、直流と交流の電力変換を行う装置で、電気設備工事で一般的なものです。交流を直流に変換することは「順変換」と呼ばれ、これは整流とも呼ばれます。反対に、直流を交流に変換することを逆変換と呼びます。

汎用インバータは、電圧形インバータと電流形インバータに分類されます。電圧形インバータは、負荷と直流電源を半導体スイッチで切り替え、負荷に方形波の交流供給を行います。電動機に採用される場合は誘導性の負荷となる為、主素子と逆並列にダイオードが接続されます。整流回路には大きな平滑コンデンサが必要となります。

電流形インバータは、直流側にリアクトルが挿入され、電流波形が方形波となります。電流は常に一方向に流れる為、帰還ダイオードを設置する必要はありません。

インバータは、交流電源の周波数や電圧、電流を制御出来る為、安定した電圧と周波数を供給する為のCVCF装置や、エレベーターの交流電動機駆動制御用のVVVF装置に応用されています。

インバータは、半導体を利用し、電力交換を行う際に高調波を発生させます。インバータ負荷に電力を供給する場合、入力電流が一般負荷よりも大きくなります。電圧形PWMインバータの場合は1.5倍、電圧形PAMインバータは3倍、電流形インバータは1.2倍の入力電流値となります。

インバータ投入時、平滑回路に使用されているコンデンサに突入電流が流れる為、インバータ回路に電力を供給する変圧器についても、電圧降下などを考慮しなければなりません。

高調波による影響

 高調波が電路に発生すると、下記のような悪影響を及ぼすことがあります。

  • 電力ヒューズの過熱溶断
  • 通信機器の雑音・映像の乱れ
  • コンデンサやリアクトルの振動・うなり・異常過熱
  • 電力量計の計量誤差発生・継電器の誤動作

高調波が発生することは、電気機器や電路に悪影響を及ぼすので、高調波が発生しない電気機器を設置するか、発生した高調波を打ち消す処置が必要です。

力率改善用の進相コンデンサは高調波に弱いと言われています。コンデンサの性質として、周波数が高いほどインピーダンスが減少する為、大きな電流が流れます。高調波が発生すると、コンデンサと併設されている直列リアクトルに大きな負担が発生し、異常振動や過熱が発生し、場合によっては損傷事故という可能性もあります。

被害を防止する為には、直列リアクトルの耐量を高める、進相コンデンサを低圧対応にする、高調波異常を自動的に切り離す装置を設けるといった手法が考えられます。

高調波に対する対応

高調波の抑制

 高調波抑制には、下記の対策が有効として、広く普及しています。

  • 進相コンデンサと直列リアクトルを組み合わせ電源波形を改善
  • コンデンサ・リアクトル分岐による「パッシブフィルタ」設置による吸収効果
  • 発生高調波と逆位相の電流を系統に流す「アクティブフィルタ」設置による打ち消し効果
  • Δ-Δ変圧器とΔ-Y変圧器の組み合わせによる変圧器の多パルス化

進相コンデンサに直列リアクトルを設ける方法を除き、高調波抑制対策機器としての「パッシブフィルタ」や「アクティブフィルタ」は高価です。高調波が多く、建物内や付近に対して高調波が悪影響を及ぼすことが想定されている場合でなければ、一般的な建築物での採用は出来る限り避けるよう計画すると良いでしょう。

直列リアクトル容量とリアクタンス

直列リアクトルのリアクタンスは、進相コンデンサ容量の6%が一般的です。

直列リアクトルは、高調波を抑制する性質があります。悪影響を及ぼす高調波としては、第5調波が主対象になっており、第5調波を直列リアクトルで緩和し、電源側へ拡大させない措置を行います。高調波抑制には、(n×XL-XC/n<0)という計算により、0よりも小さな値とします。

ここで(n×XL-XC/n<0)で示される計算式に、n=5を代入します。(nは調波の番号です。)

(5×XL-XC/5<0)=(XL>1/25×XC)=(XL>0.04×XC)となる為、XL(直列リアクトル容量)は、XC(進相コンデンサ容量)の4%よりも大きければ、電源側への第5調波の流出がなくなります。

つまり、直列リアクトルの容量は4%で良いのですが、若干の余裕を見て6%が標準とされます。

第3調波が多い場合

 原則として、高調波対策の計算は第5調波で行います。しかし、進相コンデンサや直列リアクトルを設置する場所が、すでに高調波に汚染されている地域では、系統内に第3調波が多く混在している場合があります。

第3調波成分が多い場合、前述した式への代入値(n=5)を(n=3)に変えて計算します。すると(3×XL-XC/3<0)=(XL>1/9×XC)=(XL>0.111×XC)になる為、直列リアクトルの容量を11.1%以上としなければ、電源側への第3調波流入の恐れがあることが分かります。

標準仕様のリアクトルは6%リアクトルであり、これでは電源側に流出してしまう為、13%リアクトルが存在すると良いでしょう。13%対応品の場合、6%リアクトルよりも電圧上昇が大きくなる為、進相コンデンサも同様に電圧の高い製品を選定しなければなりません。

許容電圧よりも高い電圧が印加されると、発火・焼損の危険がある為、選定時には十分な確認を要します。

電力会社が求める高調波対策と計算書

 電力会社からの電力を受給する場合、高調波が電路に流出しないよう抑制を求められます。高調波流出電流計算書を作成し、著しい高調波の発生が無いことを証明する必要がありますが、高圧受電の需要家であれば、設置設備による緩和規定があります。

  • 高圧受電である
  • 該当建物が「ビル」であり、空調負荷などを主体としている
  • 進相コンデンサにすべて直列リアクトルを設けている
  • 換算係数ki=1.8を超過する機器が存在しない

以上の条件を満足すれば、設置されている機器の一覧を提示するのみで、高調波流出電流計算は終了となります。換算係数がki=1.8を超過する機器が設置される場合、緩和規定を利用出来ない為、高調波発生機器の等価容量Poの限界値以下であることを計算によって確認しなければなりません。

高周波は、奇数次の数値において「40次」までが対策の対象となっていますが、最も悪影響を及ぼすのは「5次」と「7次」とされています。

高周波の流出限度値は、契約電力1kW当たりの数値が定められています。契約電力が大きくなるほど許容値は大きくなります。

通常、空調機メーカーが製造しているパッケージエアコンは、アクティブフィルタがない場合であっても換算係数ki=1.8を超過しないよう設計されているのが一般的です。高圧受電で、進相コンデンサに直列リアクトルを付与していれば、ほぼ全ての需要家において高調波に対する特別な対策を必要とせず、計算書の作成は簡易に済ませられる事でしょう。

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