改正民法と意思表示
植村 貴昭 この内容を書いた専門家 元審査官・弁理士 行政書士(取次資格有) 登録支援機関代表 有料職業紹介許可有 |
改正民法と意思能力・意思表示
意思能力制度の明文化
意思能力制度とは、意思能力を有しない者がした法律行為は無効となることです。
意思能力とは、行為の結果を判断するに足りるだけの精神能力をいいます。
例えば、売買契約を締結した買主が意思能力無しと判断された場合、自らが締結した売買契約の無効を主張して、代金の返還を求めることが可能となります。
意思能力制度により、判断能力が低下した高齢者等が不当に不利益を受けることを防ぐことが可能です。高齢化社会が進展する中で意思能力制度の重要性は高まっているといえます。
従来、実務上は上記の取り扱いが認められていたものの、法律の条文はありませんでした。そこで、改正民法では、意思能力を有しない者がした法律行為は無効とすることが明文化されました(改正民法3条の2)。
錯誤に関する改正のポイント
錯誤とは、表示に対応する意思が不存在で、表意者がその不存在を認識していないことをいいます。例えば、“100万円で売るつもりだったのに、契約書には1000万円と記載してしまった”、“本物であると信じて購入した絵画が贋作だった”ケースが例です。
錯誤についても、民法の改正により重要な変更がなされました。
1 判例法理の明文化
旧民法下では、錯誤については旧民法95条が規定していましたが、簡素な規定であったため、判例により要件が確立されていました。要件は以下3点です。
①表意者が錯誤に陥らなければその意思を表示しなかったといえること(主観的因果性)
②通常人であっても、その錯誤が無ければ意思を表示したであろうといえること(客観的重要性)
③動機が意思表示の内容として表示されていること※
※動機の錯誤の場合のみ。動機の錯誤とは、例えば、上記の絵画のケースや、離婚に伴う財産分与として土地等を譲渡する場合において、分与する側の者に課税されないことがその財産分与の前提とされているケースをいいます。
民法の改正により、これらの要件が民法の条文として明文化されました。
①(主権的因果性)→改正民法95条1項柱書、同項各号
②(客観的重要性)→改正民法95条1項柱書
③→改正民法95条2項
上記要件を満たしたとしても、表意者に重過失がある場合は、相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったときや同一の錯誤に陥っているときを除き、錯誤を主張できません(貝瀬民法95条3項)。
2 錯誤の効果
旧民法下では、錯誤の効果は「無効」でしたがが、改正民法においては「取消し」へ変更されています(改正民法95条1項)。
無効と取消の相違点は下記の通りです。
①無効は誰でも主張できるが、取消は主張できる者が限定される(改正民法120条)。
②無効はいつでも主張できるが、取消は追認できるときから5年以内に主張しなければならない(改正民法126条)。
3 第三者との関係
錯誤の主張は、「善意でかつ過失がない第三者」には対抗できないと規定されました(改正民法95条4項)
「第三者」とは、錯誤による意思表示が有効な間に(取り消される前に)、新たに法律上の利害関係を有するに至った者をいいます。
「善意でかつ過失がない」とは、表意者が錯誤に陥ったことを知らず、知らないことにつき過失がないことをいいます。
まとめ
意思能力や意思表示に関する制度は、高齢化社会が進展するにつれその重要性を増してきています。
仮に契約書を用いて契約を締結していても、意思能力や意思表示の瑕疵を理由に契約を取り消すことが可能です。
錯誤については、効果が無効から取消に変更されたことにより追認や主張期限の制限が問題になる可能性があります。
不安やお悩みをお持ちの方は、専門家へ相談することを推奨します。
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