改正民法と契約不適合責任

植村 貴昭
この内容を書いた専門家
元審査官・弁理士
行政書士(取次資格有)
登録支援機関代表
有料職業紹介許可有
               

改正民法と契約不適合責任

契約不適合責任とは、債務を履行したもののそれが不十分な場合に発生する責任をいいます。
例えば、買ったリンゴが腐っていた場合にリンゴの売主に発生する(可能性のある)責任です。
旧民法では「瑕疵担保責任」として規定されていましたが、民法の改正により「契約不適合責任」へと改められました。

改正の理由としては、「瑕疵」の意味の不明確さが大きな原因です。「瑕疵」の意味が不明確であるがゆえに、瑕疵の解釈をめぐって当事者間に紛争が生じやすく、紛争が発生した場合の裁判所の判断にもばらつきが生じてしまっていたのです。

そこで、改正民法では「契約不適合責任」として売主が負う責任の意義を“契約に適合しない債務履行をした責任”として明確にしました。これにより、契約でどのようなルールを決めていたかによって売主の責任の有無が決まるため、具体的かつ明確な記載のある契約書の準備がより重要になったといえます。

契約不適合責任

この記事では、契約不適合責任に関する改正民法のポイントをお示しした後、改正民法に対応した契約書の作成方法を解説します。

旧民法と改正民法の違い

1 「瑕疵」から「契約の内容に適合しないもの」への文言の変更

前述の通り、民法の改正により瑕疵担保責任から契約不適合責任へと改められたことにより、改正民法では「瑕疵」の文言は使用されておらず、「契約の内容に適合しないもの」という文言が使用されています(改正民法562条1項)。これに伴い、商法の規定も民法の改正に足並みを合わせる形で変更されました(商法526条2項、3項)。

どのような場合が「契約の内容に適合しない」に該当するかは、契約当時の取引観念をしんしゃくし、契約当事者間において目的物がどのような性質・性状・数量を有することが予定されていたかを基準として判断されます。契約の目的、目的物の種類、業界の社会通念や契約締結の経緯等が考慮要素となります。

「契約の内容に適合しない」として想定されるケースは3パターンあります。
Ⅰ物理的不適合(ex目的物の腐敗、故障)
Ⅱ環境的不適合(ex購入したマンションの日照・景観阻害)
Ⅲ精神的不適合(ex購入した居住用不動産で過去に自殺があった)

 

2 責任発生の要件の変更

旧民法下における瑕疵担保責任は、その発生要件として①瑕疵②買主の善意無過失(目的物に瑕疵があると知らず、知らないことに過失がない)の2つが要求されていました。

これに対し、改正民法における契約不適合責任の発生要件は「契約に適合しない」ことの1つだけです。
つまり、契約の内容次第で責任の有無が決まります。

 

3 責任が発生した場合の効果の変更

旧民法下の瑕疵担保責任では、契約の解除と損害賠償請求が可能とされていました。

これに対し、改正民法下の契約不適合責任では、履行追完請求(改正民法562条1項)、代金減額請求(改正民法563条1項)が可能となりました。
履行追完とは、修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しをいい、買主はいずれの方法によるかを選択できます。もっとも、売主は、「買主に不相当な負担」をかけない場合には、買主が請求してきた以外の方法で追完することも許されます(改正民法562条1項但書)。

これに加え、契約の解除も可能です。損害賠償請求も可能ですが、「契約に適合しない」ことにつき売主に帰責性が求められます(改正民法415条1項)

このように、「契約に適合しない」場合にとれる手段が増えたことにより柔軟な解決を模索することができるようになりました。

 

4 期間制限

旧民法化の瑕疵担保責任においては、「瑕疵の事実を知ってから1年以内」に責任を「追及する」ことが必要でした。

これに対し、改正民王では、目的物の「種類」「品質」に関する契約不適合についてのみ、「不適合を知ったときから1年」に限定されます(改正民法566条)。さらに、責任追及のためには「通知」が求められますが、旧民法下の「追及」から「通知」に変更されましたので、比較的簡単に責任追及が可能となりました。

 

5 商法との関係

会社間の取引や一方が商人の場合、商法が優先的に適用されます。

民法の改正に合わせて、商法も「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へと文言が改められました。商法については、その内容に変更はありません。

 

契約書の作成方法

1 「瑕疵」の文言の変更

従前の契約書に「瑕疵」や「瑕疵担保」といった文言が記載されている場合、改正民法上の契約不適合責任との区別が困難になり紛争が生じやすくなるため、これらの文言の使用は控えるべきです。

 

2 目的物の種類、品質、数量を明確にする

売主の責任の有無は「契約の内容に適合しない」場合に発生します。契約で“腐ったりんごを提供する”となっていれば、腐ったリンゴを提供しても売主に契約不適合責任は発生しません。「契約の内容」が全ての基準になります。

そこで、具体的かつ明確な条項を用いて契約書を作成する必要があります。目的物の性質や想定される欠陥を意識するとよいでしょう。

 

3 存続期間のバランス

上記の通り、契約不適合責任を追及するためには「通知」で足りるとされましたので、買主に有利な改正といえます。

そこで、売主は、特約を設ける必要があるか検討するとよいでしょう。

 

まとめ

このページでは、契約不適合責任の改正ポイントと契約書作成方法について解説しました。
これまで利用していた契約書のひな形で瑕疵担保責任という語を見たことがある、という方も多いのではないでしょうか。
それだけに、民法の改正で瑕疵担保責任のルールが変更されたことは実務に大きな影響を与えます。
不測の損害を被らないよう、適切な契約書を用いましょう。

その他改正民法のポイントはこちら
植村総合事務所のトップページはこちら

  • 専門家(元特許庁審査官・弁理士・行政書士)に相談!

      必須お名前

      会社名・店舗名・屋号

      ※法人・事業主の方はご記入ください。

      必須メールアドレス(携帯電話以外のメールアドレスをお願いいたします)

      必須メールアドレス確認用(携帯電話以外のメールアドレスをお願いいたします)

      お問い合わせ内容・ご相談内容・ご質問内容があればお書きください

      大変申し訳ございません匿名・偽名・名のみ・姓のみのご質問にはお答えできません