コラム(各種情報)

第40回 特許を開放(トヨタの事例)

植村 貴昭
この内容を書いた専門家
元審査官・弁理士
行政書士(取次資格有)
登録支援機関代表

特許を開放(トヨタの事例)

植村のコラム40

前回は、著作権改正について、簡単に説明しました。
今回は時事ネタをと思っておりましたところ、
トヨタ自動車がハイブリット(エンジンと電気で走る車)の特許の実施権を
無償で提供するという時事ネタが入ってきました。

 

まず、おさらいさせていただきますが、
特許の目的はその技術を独占して、その市場から他社の製品を駆逐して、
消費者に高い値段でもその製品を買ってもらうというものです。

その観点から見ると今回のトヨタの発表は道理に合いません。

単純に考えると、
トヨタがいい会社だからみんなにタダで開放したと考えることも可能ですが、
資本主義社会においてそのようなお花畑の考え方では生き残れません。

もし、本当にそんな理由で無償で開放したというのであれば、
トヨタの経営陣は株主から責任を追及されるでしょう。
企業は利益を追求するものにもかかわらずそれに反することになるからです。

では、利益を追求しなければならないトヨタがなぜ、
今回、無償で特許を開放したのでしょうか。

特許の実施権を無償提供?

それには、株主にも責任を追及されない合理的な理由があります。

もし、自動車の技術がハイブリットに行くということが確定していると
トヨタの経営陣が考えているのであればこのような決定はあり得なかったと思います。

つまり、現在ハイブリットには強力なライバルがいます。
それは、電気自動車です。

そして、完全な電気自動車になってしまうと、
既存のトヨタを代表格とする自動車会社の技術的優位が急速になくなるといわれています。
電気メーカが覇権を握る可能性があるといわれています。
具体的には、トヨタを筆頭とする自動車メーカの強味の最たるものが、エンジンなのです。

それを必要としない自動車の出現は、自動車会社にとって困るのです。

このまま、ハイブリットの技術を独占して
ハイブリットについて、競合他社が参入しないということは、
確かにハイブリットの市場自体だけで考えるとトヨタにとって良いのですが、
そうなるとハイブリットの市場自体が急速にしぼんでいく
ということになりかねないと判断したのです。

 

ここで、言いたいことは、特許でその分野で完全に勝って、
他社を排除できるほど優位に立ったとしても、それは、自分以外の他社全体が
その市場からほかの市場を作り出そうとするインセンティブになる可能性がある、

そして、いかに巨大な企業であっても、
1社で他社全部にあらがうことはとても難しいということです。

そのため、特許で完全に勝つ(強力な特許を取得している)という状態でも、
市場がどう動くかということを常に考えて、
本当に完全に独占してよいのか十分に考える必要があるということになるのです。

今回のトヨタの決定は、単にみんなにただで使わせてあげるということでではなく、
トヨタという会社、ひいては、
自動車会社が今後もの自動車市場で覇権を握っていくために
最適と考えることを実行したということなのです。

さて、さて、しばらく、時事ネタを続けさせていただきました。
次回は、ちょっとだけ英語について
私の思うところを記載させていただきたいと思います。

以上

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