改正民法と解除

植村 貴昭
この内容を書いた専門家
元審査官・弁理士
行政書士(取次資格有)
登録支援機関代表
有料職業紹介許可有
               

改正民法と解除

解除とは契約関係を打ち切ることを意味します。
旧民法と改正民法の違いを理解し、実際の取引に用いる契約書もこれに対応する必要があります。

この記事では、旧民法と改正民法の違いを示した後、これに対応した契約書作成方法を解説します。

旧民法と改正民法の違い

①解除の趣旨が変わった

旧民法では、解除の制度は債務を履行しない者(契約を破った者)に対して債務不履行責任(損害倍書責任)を追及するための制度でした。

これに対し、改正民法においては、債務の履行を得られなかった債権者を契約の拘束力から解放する制度と位置付けられました。

後述の各ポイントと合わせると、従来よりも解除が簡単に認められるようになったと考えられます。

改正民法の解除は契約からの解放

②解除の要件として“債務者の帰責性”が不要になった

旧民法では、契約を解除するためには債務者の帰責性が求められていました(旧民法543条但書参照)。

しかし、改正民法では旧民法のこの規定が削除されました。これにより、債務者に帰責性が無くとも契約を解除することが可能となりました。

③債務不履行が「軽微」な場合には契約解除できないことが明文化された

まず、契約解除の原則的形態は債権者が債務者に対し債務の履行を促し、一定期間経過しても債務が履行されない場合に解除するという催告解除です(改正民法541条本文)。

この催告解除においては、債務不履行が「軽微」な場合には解除できません(改正民法541条但書)。

改正民法化で解除が簡単に認められ易くなった反面、解除される側にも一定の保護を与える趣旨です。なお、従来も、このような場合は実務において契約解除は認められていませんでした。

④無催告解除が可能な場合が明文化された

③にて記載の通り、契約解除のためには原則として催告が必要です。しかし、催告をしても明らかに無駄な場合にまで催告しなければならないとするのは面倒です。そこで、従来、実務において無催告解除が認められていました。もっとも、どのような場合に無催告解除ができるか、解釈に争いが起きることが多々ありました。

そこで、改正民法においてはこの無催告解除ができる場合が明文化されました(改正民法542条1項&2項)。

⑤債権者に帰責性がある場合は解除できない

上述の通り、解除が簡単に認められ易くなりましたが、他方、解除される側の債務者が不当に害されるおそれもあります。債務者に帰責性が無いが債権者に帰責性がある場合に債権者の都合で契約解除できる、というのは妥当ではありません。

そこで、債権者に帰責性がある場合は契約を解除できないことが規定されました(改正民法543条)。

改正民法に対応した契約書の作成方法

次に、上記ポイント毎に契約書作成にあたっての注意事項を解説します。

1 解除の要件として債権者の帰責性が不要になったことに関して

改正民法では、相手方に帰責性が無くとも契約の解除が可能となりました。

例えば、車の売買契約を締結していたところ、その車を渡す前に車が天変地異によって滅失した場合、天変地異の発生については売主(債務者)に帰責性がないにもかかわらず、買主(債権者)は契約を解除することができます。

そこで、契約を解除されたくない当事者は、バランスがとれているのか今一度精査する必要があるでしょう。解除されたくない場合は、“債務者に故意または過失があるときに限り解除できる”などといった条項を契約書に記載することが考えられます。

2 債務不履行が「軽微」な場合に解除できないことに関して

改正民法では、債務不履行が「軽微」な場合には契約解除できないこととされました。

そこで、「軽微」な債務不履行とは何なのかを、具体的に記載するべきです。ここが曖昧だと、何らかの債務不履行があった場合に、それが「軽微」な債務不履行なのか否かで当事者間に争いが生まれます。

「軽微」な債務不履行を具体的に定めるとは、逆に言えば、この契約において重要な事項は何なのかを定めることといえます。契約の目的、経緯、当事者の特性や関係性等から検討してみるとよいでしょう。

3 無催告解除が認められる場合が明文化されたことに関して

改正民法では、無催告解除ができる場合が明文化されました。そのため、従来よりも無催告解除が利用しやすくなったと考えられます。

解除されたくなかったり履行の猶予が欲しかったりする当事者は、解除の際は催告等一定の手続を要求する条項を記載するとよいでしょう。

4 債権者の帰責性がある場合は解除できないことに関して

 改正民法は、債権者に帰責性がある場合は解除できないこととされました。これにより、債権者は、自分に帰責性がある場合にはたとえ相手方に帰責性があったとしても解除できないことになります。

そこで、当事者双方に帰責性がある場合に解除を認めるのか、契約書に明記すべきです。

まとめ

この記事では、解除に関する改正民法の概要とそれに関する契約書作成のポイントを解説しました。もっとも重要なのは改正民法において解除の趣旨が見直されたことです。

今後は、解除が”債権者を契約の拘束力から解放する制度である”という理解を軸に取引のバランスや契約書の条項を検討することが求められます。

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