売買契約書作成のポイント

植村 貴昭
この内容を書いた専門家
元審査官・弁理士
行政書士(取次資格有)
登録支援機関代表
有料職業紹介許可有
               

売買契約書作成のポイント

企業同士や企業と個人との間で製品や商品の売買をする際には、「売買契約書」を契約の当事者間で取り交わすこととなります。売買に限らず、契約は当事者間の合意により権利や義務を発生させる行為で、契約書はその合意を文書化し書面として形にしたものです。この記事では、売買契約書を作成することの意味や書き方についてご説明します。

また、改正民法が2020年4月から施工されています。これに伴い、これまで書式・ひな形を利用していた場合、改正民法に適合した内容に修正する必要があります。改正民法に適合しない契約書を利用した場合、予想していなかった損失を被るおそれがあります。この記事では、改正民法についても言及しつつ売買契約書のポイントを解説します。

売買契約書作成のポイント

売買契約書を作成する意味

まず、合意さえあれば売買契約は成立します。コンビニでパンやコーヒーを買うことも売買契約です。このように、契約書が無くとも売買契約を締結することは可能です。しかし、取引の金額がもっと大きくなってきたり、特定の相手方と継続的に取引をすることになったりした場合は、単なる口約束では水掛け論に終始してしまい、紛争を防ぐことも、紛争が発生した際に証拠を示して自己に有利な結果を得ることもできません。きちんと契約書を作成しておけば、いざという時に非常に強力な武器となります。具体的なメリットは以下になります。

①合意内容の明確性を確保し、誤解や思い違い、後日の紛争を防ぐ

合意は、それだけでは目に見えません。契約書として書面化しておくことで、合意を明確に目に見える形として残すことができます。また、書面化する作業を通し、お互いの意思を丁寧に確認でき、複雑な契約内容であってもお互いの認識をクリアにすることができます。これにより、当事者が契約内容に納得したうえで契約を締結することができます。納得のうえ締結したのですから、後から文句がでにくく、無用な紛争を避けることができるのです。

②紛争が発生した場合の強力な武器となる

後日紛争が生じた場合、契約を口約束で済ませていると、水掛論になってしまし紛争の解決が望めません。契約書を作成しておけば、裁判になったときの強力な証拠となります。

③他の債権者に勝てる

売主目線でいうと、買主が代金を支払うことができなくなった場合の債権回収の手段として契約書が役立ちます。買主が代金を支払えなくなった場合、この買主は他の取引先にも代金を支払っていなかったり融資を受けた金銭を返せていなかったりします。つまり、他にもこの買主に対する債権者が存在するのです。当然、他の債権者も債権回収をしたいと考えますから、債権回収は債権者同士の競争になります。取引の相手方が債務超過に陥ったときに戦うべき相手は取引の相手方ではなく他の債権者なのです。契約書の作成は、この競争に打ち勝つための第1歩です。

④リスクを軽減できる

契約書の内容は、当事者の交渉により自由に決めることができます。例えば、売買契約書中において「不可抗力」によって発生した損害を賠償する責任を負わない旨や、損害が発生した場合における損害賠償額の上限を定める旨を記載することで、契約において発生することが予見されるリスクを最小限にとどめることが可能となります。

もっとも、自由に決定できるということは、良い側面も悪い側面もあります。良い側面は上記の通りですが、悪い側面は、知識が無いまま記載すると思わぬ効果を生んでしまったり、取引先の信用を失ったりするおそれがあるということです。

 

売買契約書の書き方

まず、売買契約書における各項目は、なるべく具体的かつ明確に規定しなければなりません。規定が曖昧になってしまうと、当事者間で契約の解釈に違いが生じ、後に紛争になってしまうおそれがあります。

 

売買契約書の項目

売買契約書の柱となる事項は以下になります。取引の内容や相手方との関係性によって項目は増減します。

1 基本合意

行おうとしている取引が売買であることやこの契約書が売買契約書であることを明確にするとともに、当事者のうちどちらが売主となり、どちらが買主になるのかを記載します。最初に契約の性質や当事者の立場を明確にすることにより、後に続く規定が誰のどんな権利or義務を生じさせるのか整理しやすくなります。

 

2 目的物

売買の対象となる商品の名前、種類や品質とその個数を記載します。

売主の立場からは、型番や製造番号など個々の商品を特定することができる記載をしておくことが望ましいです。買主が代金を支払わないときに、買主に対する責任追及や動産売買先取特権による売掛金回収がしやすくなります。とくに、動産売買先取特権があれば他の債権者との競争に勝ちやすくなるため、なるべく目的物は個々に特定できる規定にした方が良いでしょう。

 

3 引渡し

売主が買主に商品を引き渡す期日や場所について記載します。

また、引渡し場所までの運送費や、引渡し日までの保管費用をどちらが負担するのかについても必要に応じて記載します。

 

4 代金

代金の額、支払期日、支払方法(現金、手形や銀行振込等)について記載します。目的物と代金額の2つが売買契約の要素になりますので、最低限この2つは契約書に明記することが必要です。

 

5 所有権の移転時期

売主から買主に商品の所有権と移転する時期をいつにするのかを記載します。以下の2通りの定め方があります。

 

6 商品の滅失・損傷の危険の移転時期

この規定により当事者双方に帰責性なく目的物が滅失・損傷した場合(eⅹ自然災害)にその危険を買主と売主のどちらが負担するのか決まるため、重要な意味を持ちます。ここは、民法改正により従来の民法の危険負担の規定が変更されたため、注意が必要です。従来の民法における特定物についての債権者主義は削除され、危険負担の効果も反対債務(ex代金支払義務)の履行拒絶に変更されました(567条1項)。一般的に、危険の移転のタイミングが早ければ売主に有利となり、遅ければ買主に有利となります。

 

7 検査

買主による商品の検査方法や検査期間などを定めます。後述する契約不適合責任と関連します。

 

8 遅延損害金と利率

代金が期限までに支払われなかったときに売主が買主に請求できる遅延損害金とその利率について定めます。改正民法により法定利率が年5%から原則年3%へ変更されました(404条2項)。これに合わせて商事法定利率(年6%)は廃止されました。契約書に利率に関する定めが無い場合はこの法定利率が適用されますから、旧法の法定利率を想定して契約を締結すると思わぬ損失を被ることとなります。あらかじめ契約書にて約定利率を設定しておきましょう。

 

9 契約不適合責任

商品の種類、品質、数量が契約に適合しない場合の対応について定めます。旧民法では瑕疵担保責任と呼ばれていたものですが、民法改正によって契約不適合責任へと変更されました(562条等)。これにより、「瑕疵=契約不適合」と定義づけられ、契約の内容と実際に引き渡された商品とを照合して売主に責任が生ずるかが判断されます。そのため、売買の対象となる商品の種類や数量を契約書に明確に記載し、当事者間で思い違いが生じないようにする必要性が増したといえます。

種類と品質に関する契約不適合責任については、買主が売主に対し責任追及できる期間が、商品が引渡時から1年(566条)または契約に適合しないことを知ってから6カ月(商法526条2項)に制限されていることとの関係から、商品が引き渡された際の検査の方法についても契約であらかじめ定めておくとよいでしょう。なお、商人間の売買において、検査は買主の義務として法定されています(商法526条1項)。

 

10 表明保証

例えば「売主は、売買の目的物である本件商品について、仕様書に記載する事項が真実かつ正確であることを保証する。」というような規定です。

これについては、前述の契約手不適合責任と関係を意識する必要があります。表明保証条項が契約不適合責任とは別の担保責任を定める趣旨なのか、単に商品の品質を明らかにしただけなのか、表明保証条項に違反した場合の効果を具体的に記載する必要があります。

 

11 解除

契約を解除できる場面を定めます。改正民法で解除のルールが変更されましたので、注意が必要です。変更点としては、解除において相手方の帰責事由が不要となったこと(541条本文)、軽微な債務不履行では解除できないこと(541条但書)、債権者に帰責事由がある場合は解除できないこと(543条)が主な変更点です。

これを受け、どういうものが軽微な債務不履行なのかを具体的に記載することや、自分(債権者)に帰責事由があったとしても相手方(債務者)の帰責事由を理由に解除できる旨定めることが必要になると思われます。

 

12 協議事項

契約書に定めのないことについては協議により解決することを定めます。ただ、これに頼りすぎると何も決めていないのと同じこととなったしまし、契約書作成が徒労に終わってしまうおそれもあります。記載には細心の注意を払いましょう。

 

13 合意管轄

売買についてトラブルが発生した場合にどこの裁判所で審理するかを定めます。 契約書への記載に当たっては、専属的合意管轄である旨明記する必要があります。

 

売買契約書作成の際の注意点

まず、売買契約書における各条文は、具体的かつ明確に規定しなければなりません。規定が曖昧だと、当事者間で条文の解釈に違いが生じ、後に紛争になってしまうおそれがあります。
特に、商品の種類、品質、数量や所有権や危険の移転時期といった項目に関しては紛争が発生しやすいため、丁寧に規定する必要があります。

契約書の書き方に決まりはなく、自由に決めることができます。逆にいえば、きちんとした契約書をつくるのも下手な契約書をつくるのも、全ては自己責任です。

 

売買契約書の種類

一口に「売買契約書」と言っても、取引の内容に応じて、商品の売買を行う際における「物品売買契約書」や、不動産の売買を行う際における「不動産売買契約書」、農地の売買を行う際における「農地売買契約書」、継続的な売買の取引を行う際における「継続的商品取引基本契約書」等、様々な種類があります。
取引の実情に合った契約書を作成できれば、交渉や取引を円滑に進め、後の紛争予防にもつながります。

 

印紙税

売買契約書は印紙税の課税対象となる可能性があります。
「印紙税」とは、契約書や領収書等の商取引において使用される書面に対して課される税金のことで、課税対象書面に「収入印紙」を貼ることによって納めます。
印紙税の金額は、基本的に契約金額によって変わります。 契約金額に対応する印紙税は以下の通りです。

① 1号文書(不動産売買契約書)

・契約金額の記載無し又は1万円以上10万円以下   200円

・10万円を超え50万円以下            400円

・50万円を超え100万円以下           1000円

・100万円を超え500万円以下          2000円

・500万円を超え1千万円以下           1万円

・1千万円を超え5千万円以下            2万円

・5千万円を超え1億円以下             6万円

・1億円を超え5億円以下              10万円

・5億円を超え10億円以下             20万円

・10億円を超え50億円以下            40万円

・50億円を超えるもの               60万円

 

② 7号文書(継続的商品取引基本契約書)

・契約金額に関わらず一律              4000円

 

③ 17号文書(「代金の受領に関する記載」がある売買契約書)

・契約金額の記載無し又は5万円以上100万円以下  200円

・100万円を超え200万円以下          400円

・200万円を超え300万円以下          600円

・300万円を超え500万円以下          1000円

・500万円を超え1千万円以下           2000円

・1千万円を超え2千万円以下            4000円

・2千万円を超え3千万円以下            6000円

・3千万円を超え5千万円以下            1万円

・5千万円を超え1億円以下             2万円

・1億円を超え2億円以下              4万円

・2億円を超え3億円以下              6万円

・3億円を超え5億円以下              10万円

・5億円を超え10億円以下             15万円

・10億円を超えるもの               20万円

なお、上記に該当しない売買契約書は非課税となっています。

 

まとめ

売買契約書には、取引の内容を明確にし、紛争を未然に防ぎ、紛争が発生してしまった場合には自分に有利な結果をもたらすための武器となる役割があります。
これらの役割を十分に発揮させるためには、各条文について具体的かつ明確な規定をすることが必要となります。契約書作成に不安がある場合、専門家に相談してみることを推奨します。

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