ローマ字(アルファベット・漢字)等の一義的な称呼(読み仮名)が定まらない商標について:2段併記(二段併記)

植村 貴昭
この内容を書いた専門家
元審査官・弁理士
行政書士(取次資格有)
登録支援機関代表
有料職業紹介許可有

ローマ字(アルファベット・漢字)等の一義的な称呼(読み仮名)が定まらない商標について:2段併記(二段併記)

問題の所在

カタカナ、ひらがなの商標については、
表音文字であるため、一義的な称呼(読み仮名)が決まります。

他方、ローマ字(アルファベット)や、漢字などの場合には、
称呼(読み仮名)が一義的には定まりません
(英語よみ、フランス語よみ、イタリア語よみ、等々で異なることもあります
漢字も音読み訓読みで異なることもあり得ます。)

そのような商標を出したい場合にどうすればいいのかについて、
説明します。
ただ、この問題は奥が深く、費用をどの程度出せるかによって、ベストな対応も変わってきます。

また、この問題は、2段併記(二段併記)がどのような効果(メリット)、欠点(デメリット)
を有しているのかと同じ問題です。

ローマ字・漢字の商標

特許庁で自動的に称呼

特許庁で、過去の同種の先行商標があるかないかを調べる(検索・調査)する際に、
この称呼(読み仮名)を使います。

そのため、特許庁は一義的に読めない商標であっても、今後の検索のため、
無理やりにでも、複数の読み仮名をつけてしまいます。

例えば弊所で取得している
「PolarisIP」
の場合、特許庁(J-platpat)を検索すると

(561)称呼(参考情報):ポラリスアイピイ,ポラリス
 
 
と出てきます。
 
これは、「(参考情報)」とあるように、この商標の本当の読みであるという保証はなく、
単に、勝手に、特許庁が便宜的に今後の検索(データベースに登録する)ために自動的に付けたものです。
 
そのため、この称呼の付き方が気に入らないからと言って、
どうこう言えるものでも、
修正を求めることもできません。
 
前述の例でいえば、「PolarisIP」を私は、Webページやその他の場面で、
ポーラスイプ」と、たとえ呼んでいても(読み仮名をつけても)、全く関係がないのです。

もちろん、上記のように、特許庁の付与について何かをいって修正させることもできません。

特許庁は現実の使用などではなく、あくまで提出された書類から、普通の人がどう読むかを、
認定して参考情報としてつけているのです。

参考情報でも「称呼(参考情報):」は重要

しかしながら、この参考情報とはいえ、実は、この「称呼:参考情報」は重要です。

なぜ重要なのかは、特許庁がどのようにして、出願された(申請された)商標を審査するかと関係します。

出願された商標で問題となるのは、大部分は
① その商標って内容をあらわしてますね(識別力無し)、と
② 先に類似のものがすでに出ています。(先願あり)
の2つです。

このうち、②の調査の際に、この称呼:参考情報をもとに、
先に同じような商標が出ていないか調べられるのです。

そのため、この参考情報の付き方は、大変重要となってくるのです。

この「称呼(参考情報)」について2つの場面で主に使われます。

第1の場面(自分の登録の場面)

まず、先ほど説明したように、自分が商標登録を受けたい場合に、
特許庁の審査官に、同じような称呼(類似)の先願の商標がないか確認されます。

この時に、同じような称呼(類似)の先願の商標があると、登録できません。

第2の場面(他人の登録を妨害する場面)

今度は逆に、こちらが登録された後(先に出した後)に、第三者が同じような商標を出してきた場合に、
特許庁の審査官に、その第三者の商標出願を登録していいか確認する際に、先願の商標がないか確認されます。

この時に、先願があると、第三者の登録を阻止できます。

まとめ

以上のように、この「称呼(参考情報)」は、コントロールができないにもかかわらず、
非常に重要であることがお分かりいただけたと思います。

どうしても一定の読み方を強制したい場合

では、一定の読み方であることを、固定したい場合に、
方法がないのか?

というと、そんなことはありません。方法は(以下の併記パターン)

 

PolarisIP ポーラスイプ

又は 2段併記パターン

PolarisIP

 ポーラスイプ

のように、読み仮名も含めて記載して、
商標として出願してしまうのです。

なお、二段併記の場合には、ロゴ商標としてしか出願できません。

これであれば、非常に高い確率で、読み方を強制できます。
※ ただし、ここまでしても、審査官が勝手に読み仮名を振る可能性はゼロではないです。

なお、併記パターンと二段併記パターンは、二段併記パターンの方が、
読み仮名と認められやすいので、こちらを推奨します。

どんな時にこの方法が有効なの?

この方法が有効なのは、例えば、以下の2つの場合です。
※ 判断者は審査官なので、必ず、思った通りになる(読み方を強制できる)とは限りません。

① 先願回避

 ローマ字部分は同一ではないが、読み方によっては、先願となりうる商標がある場合に
これを何とか回避したい場合、例えば、
先願が 「ポラリス」(カタカナ)であり
こちらは、「PolarisIP」で出したいが、このままでは普通に読まれると拒絶が考えらえれる場合

② 後願の登録を妨害

 普通には読まない特別な読み方で登録して、その読み方をする他の綴りを排除したい場合、
自分の出願が 「PolarisIP ポーラスイプ」であり

 後願で、「ポーラスイプ」を排除したい場合

この方法でいいじゃない!

この方法で、全部やればいいじゃないと思われたと思います。
しかし、この方法にはいくつか問題点があります。

問題点1 取消されるかも

不使用取消審判で取消される恐れがある。

商標は出願したとおりに使わなければなりません(一部の使用は、使用と認められない可能性があります。)。
そうでないと、不使用取消審判で取り消されてしまいます。

今回の例でいえば、登録しているのは「PolarisIP ポーラスイプ」ですので、
「PolarisIP」単独で使っていると、商標の使用と認められない恐れがあります。

問題点2 後願排除能力が低い

PolarisIP ポーラスイプ」でとった以上、読み仮名はポラースイプだけになる可能性は高いです。

そうすると、「ポラリスアイピー」などの後から出願される後願の登録を妨害する力を持たないかもしれません。

ベストな方法

以上のような事情があるため、私としては、

読み仮名をつけたパターンで1つ取得した後、
読み仮名がないパターンでも出願して取得する

という方法をお勧めしております。
(※ 読み仮名がないと登録できない可能性も例もあります。)

ただ、この方法は、2回出願する必要があり、費用も2倍かかりますので、
そこまでするかの、経営判断をしていただくことになります。

関連ページ

2段併記(二段併記)の問題点

激安・格安7:漢字・ひらがな・カタカナ・ローマ字・英語のどの商標で出願すべきか:4つの視点

二段併記商標に関する論文(出典:パテント)

 

©弁理士 植村総合事務所 所長 植村貴昭

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