PCT

第42回 PCT 世界特許出願 国際特許出願 特許協力条約

植村 貴昭
この内容を書いた専門家
元審査官・弁理士
行政書士(取次資格有)
登録支援機関代表

PCT 世界特許・国際特許・ 特許協力条約

植村のコラム42

はじめに 

前回は、英語が苦手な私がおこがましくも、
英語について記載させていただきました。
今回は世界特許というものについて記したいと思います。

なお、PCTの出願の必要性について書いたページは、こちらです。

世界特許と米中貿易戦争

実は、世界特許というものは存在しないです。

なぜなら、特許を与えるか与えないかは
その国の将来における産業の発展に大きく作用することになるため、
各国が独自にその権利を持っていたいと考えているからです。

具体的には、現在まさに米国・中国で行われつつあると考えられている
貿易戦争の主たる争点の一つは特許をはじめとした知的財産権です。

特許とは国家権力

この権利を他国に握られることによる不利益は想像できると思います。

ちょっと想像できないという方のために、例えばの話をします。

そうですね、世界特許を付与する機関として
普通の方が想像するとしたら、国際連合(国連)ではないでしょうか。
(実は、知財の世界ではそれに相当する機関として
WIPOという機関がありますが、ここでは、分かりやすく国連にします。)

この機関が、もし、一括して特許を付与する・付与しないを決定して、
国連に所属する機関がそれを受け入れなければならないとしたらどうでしょうか。

一見すると、国連は公平中立の立場のように想像されていると思いますが、
現実には、一定の国(どの国とはあえて申し上げませんが・・・)が、
その力に基づいて、ある程度、人事、財政、その他について
強い影響力を有してるのが現実というものです。

その場合に、その影響力のある国が、自国が最も強い分野について
(例えば、薬について特許を付与させてしまう)、
逆にその影響力のある国が、自国が弱い分野について特許を付与させない。

などということがあれば、
ほかの国は、その特許使用料の支払で貿易的に大きな打撃を受けてしまいます。

お金で済めばよいですが、
例えばその薬が無いと命にかかわる薬について、使えなくなる
(現実にあるのは、薬の値段が数千万円と高額に設定してあり、現実上使えない)
ということが起こり、その国ではたくさんの死者が出る。

ということも十分に起こりえます。

そこまでいかなくても、
一定の産業の企業が根こそぎ倒産するということも現実に起こりえます。

そのため、知的財産権の付与は、国家主権の際たるものと考えられています。

EUにおける特許の扱い

そういった理由で、特許をはじめとする知的財産権を
世界的に認めるようなことはよほどのことがない限り、あり得ないのです。

ただ、EUについては、このような制度があります。
特殊な例ということになろうかと思います。

特許協力条約(PCT)

では、世界特許制度に近い制度はないのかといわれると、存在します。

特許協力条約(PCT)といわれるものです。

これは、その制度を使って出願すると、
各国に仮に出願したと同じ効力を認めましょうということです。

しかし、それらは必ず、そのあと各国に移行させて、
各国の審査を受けて登録になるか判断されることになります。

その際に、他国の判断などは参考にはされるでしょうが、
独自の権限と見解をもって、登録させるさせないということができます。

なお、各国に移行した後は、普通にその国に出願した特許と同じ扱いを受けます。

PCT出願と各国での登録

この制度をもって、俗に、世界特許ということがあります。
そのために、Webページなどに世界特許出願中などという表記もありますが、
正確には、「特許協力条約に基づく国際出願」というのが正しいです。

ただ、世界特許とか、国際特許という言葉はかっこいいので使いたいですよね。

正確ではないですが、まあ使っても通じるので問題ないと思います。

さてさて、世界特許の話をしたので、次回は、
マドリッドプロトコルという世界商標のお話をさせていただく予定です。

特許庁のHPはこちら 

©弁理士 植村総合事務所 所長弁理士 植村貴昭

                           以上