コラム(各種情報)

第09回 続下町ロケット 無効審判とは

植村 貴昭
この内容を書いた専門家
元審査官・弁理士
行政書士(取次資格有)
登録支援機関代表

第09回 続下町ロケット 無効審判とは

前回は、下町ロケットが、
やっぱり物語で現実はあのようにうまくいくことはない
ということをお話させていただきました。

今回はその続きで、その2つ目をお話しさせていただき、
さらに知的財産の最前線について少しでも知ってもらえたらと思っています。

続下町ロケット 無効審判とは何かについて

下町ロケットでは、大企業側は主人公の会社の特許があることから、
その特許の譲渡を受けることを提案し、交渉してきます。
その額は数億円です。

しかし、知財の分野ではこれは普通ではないです。

特許譲渡の交渉はあるか?

どこが普通ではないかというと、その特許の有効性を前提としていることです。
つまり、その特許は、どうやっても無くならないということを前提に行動しています。
しかしながら、実は特許には無効審判という制度があります。

この無効審判というのは、一度成立した特許を後から、
「やっぱりそれは特許とするべきではなかったから、無かったことにするよ」
ということを可能にする准裁判手続(=裁判に近い手続き)です。

これを起こすという場合、きわめて大変なことになります。

もちろん、その純裁判手続きなので、そのための書類の作成は大変ですが、
一番大変なのは、その書類での主張を裏付ける資料収集なのです。

 

どのようなことをするかというと、まず日本の特許文献を探します。
そこで、満足できる資料を発見できるのであれば、そこで終了です。
しかし、そこは特許庁の審査官が探しているので、
満足できる資料が発見される可能性は低いです。
そうすると、アメリカ、ヨーロッパ、中国の特許文献を探すことになります。
同時に、各学会の論文・雑誌・インターネット上の情報も探すことになります。

この作業は、英語・中国・その他の言語で探す必要があります。
単に語学ができるだけではなく、
その言語で書かれている内容を理解できる人材でなければ探すことはできません。

さらに、この作業はいずれも、たった一つの見逃しも許されない
極めて緻密で、時間のかかる作業になります。

そして、見つかった資料を組み合わせて、
審判官(純裁判手続きの裁判官のような人です)を説得する文章を組み立てるのです。
審判官を説得できれば、その特許は無効になります。

もちろん、相手は、必死にそれを防御しますので、
本当に泥沼の企業間戦争の様相を呈してきます。
これらに必要とされる予算は、少なくとも数百万円です。

そのため、一般的にはなかなかこういったことはしませんが、
下町ロケットで提示された譲渡金額は数億円です。

それほど提示できるのであれば、絶対にこの無効審判をかけてくるはずです。

その資料があまり良くなくて無効にできそうもないという場合でも、
譲渡交渉を少しでも有利にするために、無効審判は少なくともかけてくるのが普通です。

 

そういう、特許権の紛争で必ず起こることを端折っている
この下町ロケットのストーリーは、弁理士にとっては不満です。

ただ、資料を探すというのは、特許文献の場合、
私のようなむさ苦しいオヤジが、パソコン前で、
ひたすら何日も何日も画面に向かいながら読んでいる姿だけ、
となってしまうので、
絵にならないから仕方ないなぁとも思います。

その他の文献をさがすのも、国会図書館などに行って、
ひたすら読むとだけということになります。

それに引き換え、法廷闘争というのは絵になります。

そういったわけで、弁理士は弁護士に比べて日陰者だなぁと、
改めて思った植村でした。

かなしいなぁ・・・・・。

実は、このように知財訴訟において、弁理士がやる部分が最も重要な部分なのです。
つまり、資料がよくないとどんなに頑張っても無効審判は勝てないし、
逆に、資料がよければ、ほとんど何もしなくても勝てるのですが・・・。

さて、気を取り直して、
次回は、うーんと、著作権についてお話させていただきたいと思っております。

以上

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