コラム(各種情報)

第08回 下町ロケット ヌルい! ありえない!

植村 貴昭
この内容を書いた専門家
元審査官・弁理士
行政書士(取次資格有)
登録支援機関代表

第08回 下町ロケット ヌルい! ありえない!

 

前回は、キャラクタービジネスについてお話をさせていただきました。
今回は、このコラムの連載の発端となったドラマである下町ロケットですが
ほとんど触れずにここまで来てしまいました。

下町ロケットについてちょっと話をしつつ、
知的財産の最前線について少しでも知ってもらえたらと思っています。

で、結論から申し上げますと

下町ロケット
最前線の知的財産の現場から見ると、
ヌルい!! ありえない!!


と感じております。

その理由は、特許・商標等の知財は、企業間「戦争」の道具です。
そのため、これらが絡んだときの紛争はまさに食うか食われるかの争いとなります。

ヌルいと思う場所が幾つかあるのですが、
まず1つ目を以下に記載ささせていただきます。

 

そもそも、主人公の会社が取っていた特許があることによって、
ロケットを作れるような大企業がロケットが作れなくなるような特許が取れるか?
ということです。

下町ロケット 特許取得済みで作れない?

正直、本当の特許の最前線では、このようなことはかなり可能性が低いです。
むしろ、本当にこのような事例が生じる場合は、
特許の手続きの途中で、ターゲットなる企業の製品をロックオンして、
それに合わせて、そのような狙いがあることを審査官に気づかれないようにしながら、
特許を取得していくというのが必要です。

つまり、本当に特許を有効活用
(振り回して、他の会社からお金を取るようなこと)をしている会社は、
何度も何度も特許庁とのやり取りをしながら、ターゲットとなる商品を、
後から権利範囲に入れていくというようなことをしております。

そういうことが可能な一部の弁理士は、
そのような情報を受けつつ、どのようなストーリで、特許庁の審査官に気が付かれずに、
そのターゲットの製品を、その権利範囲に入れていく
ということをやっていきます。

イメージとしては、地雷を後から相手の足の下に移動させるようなイメージです。
そういう風に、
本来は特許法では想定していないようなことをしていることを
審査官に気が付かれないように、仕込んでいくものなのです。

それに対して、このお話では、たまたま取った特許(地雷を)を、
大企業が踏むという、とてもありえないようなことが書かれています。

 

絶対ないとは言えませんが、かなり確率が低いなと思います。
そして、もし、そうだとしたら、
実は、作中に出て来る辣腕弁護士よりも、
作中ではサラッとしか出てこないこの特許を取得した弁理士の方が、
ものすごい腕と言うことができます。

また、この弁理士、相当に胆力があるとも思います。

どういうことかというと、特許を取る場合には、
通常必ず特許庁の審査官から従来技術に近いので登録できませんと通知が来ます。

その際に、特に会社から、これは重要ですから、
お金が凄くかかっても良いからがんばってくださいと言われていなければ、
特許を安易に取るために、権利を小さくしてしまいます。
権利を小さくすると簡単に特許を取ることが可能となるからです。

 

下町ロケットの場合、特許が取られた際にはまだ問題が発覚しておらず、
クライアントである会社も特許の重要性を認識していない状態でした。
そのため、通常なら、とりあえず特許を取ってもらえば良い
という程度の状況での特許取得だったはずです。

その担当弁理士は、通常であれば、安易に特許化するために権利を小さくするのに、
それをしなかったということです。

そういったわけで、この担当弁理士の胆力や信念の強さを感じています。

でも普通はいないですよね(笑)

そういう訳で、まだまだこのお話には、

最前線の知的財産の現場から見ると、ヌルい! ありえない! そんなに甘くない!

という部分があります。
次回も、そんなお話をさせていただければと思います。

以上

特許庁のHPはこちら