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ショート!①|特定技能 ビルクリーニング

植村 貴昭
この内容を書いた専門家
元審査官・弁理士
行政書士(取次資格有)
登録支援機関代表

ショート!①

短絡とは

短絡とは、電気が流れている導体同士が接触し、負荷抵抗が電線抵抗のみになった状態です。

100V回路でいえば白線と黒線が接触した状態が短絡状態となります。
短絡は「ショート」とも呼ばれています。

回路が短絡状態になった場合、その回路には「電線の長さ分の抵抗」しかありません。
諸所の影響を無視した単純な考え方ではありますが、
VVFケーブルの1.6mmのkm当たりの抵抗値は約9Ωであり、
100m(0.1km)埋設した場合の回路抵抗は0.9Ωです。

この電線路の末端を短絡し、100Vの電圧を印加した場合、
約111Aの電流が流れ、その全てが電線に発生する熱負荷です。

銅線に短時間電流が流れた場合の温度上昇式
θ=0.008(I/A)^2×tで1秒毎の温度上昇を計算してみると、

・θ=0.008(111A/2[mm2]^2×1[Sec]=24.6℃

1秒毎に25℃弱の温度上昇が発生するといいます。
電線からは一定速度で放熱されていますが、発熱量の方が多ければ温度は上昇するので、
3~4秒もすれば被覆は全て溶融し発火します。

電路が短絡すると極めて高い熱が電線全体から発生するので、
電線を被覆しているビニールやポリエチレンは、加熱され溶けてしまいます。

内部の銅線も発熱によって損傷してしまい、
短絡事故を経験した電線は著しい性能低下が発生します。

短絡に対する保護

短絡が発生した場合、回路の抵抗が極めて小さい状態になるため、
大きな電流が流れ続け、電流はP=I^2×Rの計算式に準じて、熱に変化していきます。

低圧の短絡であっても、数千Aの電流が流れることがあり、
需要家内の遮断器で保護しなければ、配電線に設置してあるヒューズが溶断するなど、
付近への停電事故波及の恐れも考えられます。

高圧電路で短絡事故などが発生した場合、
変電所の遮断器が作動すれば付近一帯の停電(波及事故)となり、
損害賠償や電気主任技術者の責任などを問われる事態になります。

短絡電流に限った話ではありませんが、電気事故は速やかに遮断し、
付近への波及を食い止めなければなりません。

配線用遮断器による保護

低圧回路で短絡事故が発生した場合、
電力会社の発電設備から需要家の変圧器を通り、
短絡事故点までの間に大電流が流れ続けます。

需要家内の変圧器から低圧回路に埋設されているケーブル・遮断器に
極めて大きな電流が流れ、衝撃や発熱に晒されてしまいます。
この短絡電流は、遮断器が動作し、短絡点が回路から切り離されるまで継続します。

短絡電流が流れるケーブルや遮断器は、衝撃と発熱が加わり、継続すると焼損します。
ケーブルや遮断器が破損する以前に、短絡状態を除去し、
事故点切り離しを行わなければならなりません。

事故点遮断のためには、一般に配線用遮断器が使用されます。
配線用遮断器は、定格電流の10倍を超える電流が流れた場合、
瞬時に電路を引き外すという動作特性があります。

電路に異常電流が発生した場合、配線用遮断器を引き外すことにより、
短絡地点を電路から遮断します。配線用遮断器の作用

保護協調

回路保護には保護協調という考え方があり、
電路の規模や負荷の大きさに小さな遮断器から大きな遮断器に向けて、
段階的に保護するように計画します。

「10A程度の負荷に対して、20Aの遮断器で保護」し
「20Aの遮断器が20個集まった回路は、200Aの遮断器で保護」し
「200Aの遮断器が10個集まった回路は、高圧LBSのヒューズで保護」というように、
事故が発生したとしても、広範囲に停電が広がらないように、
保護が段階的になされています。

これは保護協調と呼ばれ、電気設備設計の基礎的事項となります。

定格遮断容量

遮断器は、どんな大きさの短絡電流でも遮断出来る訳ではなく、
遮断器には定格遮断容量という考え方があります。

短絡電流の事故電流を遮断出来る電流値を規格しており、
配線用遮断器の場合、2.5㎄、5㎄、25㎄、50㎄と、遮断容量の規格が有ります。

定格遮断電流は、事故電流を遮断出来る最大値であり、
定格遮断電流以下の短絡電流であれば、支障なく遮断出来ます。

2.5㎄が定格遮断電流の配線用遮断器を選定した場合、
1.0㎄の短絡電流であれば遮断可能です。
しかし、5.0㎄の短絡電流が流れた場合、遮断出来ず、事故が継続してしまいます。

下位の遮断器で事故点遮断出来なかった場合、上位の配線用遮断器で事故点を遮断します。
上位の遮断器は事故点以外の健全な回路を多数含んでいるため、
健全回路を巻き込んだ広範囲停電となります。

短絡電流は変圧器に近いほど大きく、大電流が発生する傾向にあります。
配電盤の送り出し遮断器は50㎄の定格遮断電流を持つ遮断器を選定し、
末端に向かうにつれて、小さな定格遮断電流の遮断器を選定していきます。

正確に短絡電流を算出する場合、電路のインピーダンスマップを作成し、
遮断器二次側直近や幹線の各所で発生した短絡電流が、何A流れるのかを計算し、
短絡電流以上の定格遮断容量を持つ遮断器を選定することが望まれます。

次回は、すぐに遮断しなければ大事故につながる高圧回路の短絡保護についてご紹介します。

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