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非常放送設備とは|特定技能 ビルクリーニング

植村 貴昭
この内容を書いた専門家
元審査官・弁理士
行政書士(取次資格有)
登録支援機関代表

非常放送設備とは

非常放送設備は、消防法によって定められた「非常警報」の一つであり、
大規模な建築物や、消防隊が容易に進入出来ない「無窓階」の防火対象物で、
収容人員が一定数以上の建物に設置義務が課せられています。

非常警報には、手動で鳴らすサイレンや携帯拡声器など簡易な設備もありますが、
大規模な建築物で手動による警報は限界があり、
建物全体に放送が可能な「非常放送設備」の設置が求められます。

不特定多数が集まる商業施設や宿泊施設では、ベルやサイレンを突然鳴動する警報方式では、
突然の大音響によってパニックを誘発する恐れがあります。
パニックは二次災害の原因となるため、
突然「火災なので避難して下さい」という放送を流すのは望ましくありません。

万が一感知器が発報したとしても「感知器が動作したので確認しています。」
という確認放送をまず流し、建物管理者が火災を確認した上で、
火災発生を知らせる放送に切り替えるという二段式の警報方式が採用されています。

火災放送を流すまでのステップ

防火対象物の項における取り扱い

建築設備として用いられる放送設備には、「業務放送」と「非常放送」があります。
業務放送は「音響設備」としての位置付けであり、
必要な場所に限った案内放送やBGMを計画するものであり、
聞き取りやすさを重視した配置計画が求められます。

消防法に規定された「非常警報設備」として放送設備を計画する場合、
放送設備を設置する対象の建物が、防火対象物の何項に該当する事になり、
放送設備は非常にコストが高く、年次点検やメンテナンスのコストが大きいため、
警報設備を「非常ベル」などの地区音響設備で代替出来ないか確認すると良いでしょう。

例として、計画する建築物の用途が事務所であれば、
消防法上は防火対象物のうち15項に分類され、11階以上の建築物や、
地階数3以下の建築物でなければ、非常放送設備の設置義務はありません。

消防法の基準として非常放送設備が不要と判定した場合でも、
所轄消防の指導として求められる可能性があるため、
消防協議時に「非常警報設備として何を採用するか」を十分な協議を行うと良いと思います。

非常ベル・サインの計画

旅館や病院など、不特定多数が宿泊する建物や、
避難が困難な負傷者や身障者が利用する建物では、比較的小規模の建物であっても、
非常警報設備を求められます。
非常ベルやサイレンなどを設置し、利用者に火災を速やかに知らせなければなりません。

非常ベルを非常放送設備として採用する場合、非常ベルの中心から全ての位置に対し、
半径25mの円で包含出来るように配置しなければなりません。
自動火災報知設備で設置する地区音響用の非常ベルがあれば、
その有効範囲は非常警報設備と同様であるとされるため、非常警報器具を免除出来ます。

非常ベルやサイレンは、1m離れた場所で90デシベル以上の音響を出すよう
義務付けられています。
カラオケボックスやスタジオなど、
周辺に90デシベルに近いような大音響が常時発生しているような場合、
ベルの音が聞こえない危険性があります。

音響装置への電源供給を強制カットする「カットリレー」を設け、
火災信号で非常警報以外の音響を停止させるといった措置が求められます。

非常放送設備の設置基準と計画

建築物への収容人員が数百人を超えるような大規模建築物では、
非常ベルやサイレンが突然大音量で流れると、パニックを起こす可能性があります。
大規模な建築物では、サイレンやベルではなく、
音声による火災警報を行う「非常放送設備」の設置を義務付けられています。

非常放送設備は、緊急放送を明瞭に聴視するため、
建物の全エリアが包含出来るようスピーカーを配置しなければなりません。
スピーカーは、半径10mの範囲で建物全域を包含するよう規定されており、
この範囲を包含するように計画しなければなりません。

階段や傾斜路も同様に配置しなければなりませんが、
垂直距離15mにつき1個以上設置する事で対応出来ます。

非常用スピーカーを設置した場所には、
ベルやサイレンを設置しなくても良いという免除規定があるため、
スピーカーとベルが両方設置されることはありません。

スピーカー1台が警戒出来る範囲は半径10m以内ですが、
多数の小区画が存在する計画では、
小区画にそれぞれスピーカーを設置するのは合理的でないため、
以下の放送区域は、スピーカーの設置を免除出来ます。

  • 居室で6㎡以下の放送区域
  • 居室から地上に通じる廊下、その他の通路で6㎡以下の放送区域
  • 30㎡以下の非居室(倉庫・便所・更衣室・機械室など)

非常放送設備におけるスピーカーは、L級、M級、S級に分けられており、
それぞれ確保出来る音圧に違いがあります。
L級は最も大音量が確保出来る非常用スピーカーであり、
100㎡以上の範囲まで警戒が可能です。

M級は50㎡を超え100㎡以下、S級は50㎡以下の警戒範囲であり、
設置する部屋の大きさに合わせて選定が可能です。

非常放送設備として使用するスピーカーは、
消防認定を受けた製品を使用しなければなりません。
認定を受けたスピーカーは耐熱性があり、
80℃の空気中で30分間異常無く鳴動出来る性能を持っています。

スピーカーの出力特性と測定基準

スピーカーの出力音圧は、無響室で測定し「音声警報第2シグナル」を放送した際に、
軸上1mでの最大値をそれぞれ下記の数値にて定めています。

S級:84〔db〕以上87〔db〕未満

M級:87〔db〕以上92〔db〕未満

L級:92〔db〕以上

 

非常用スピーカーの配線基準

火災によってケーブルが延焼し、非常放送が鳴動出来ないようでは、
避難に支障をきたすため、非常に危険です。
非常放送用のスピーカーへの配線は、下記の性能が求められます。

  • 絶縁性能0.1MΩ以上を確保する
  • 同一の電線管に他の電線を収容しない
  • アンプからスピーカーまでは、HPケーブルなど耐熱性がある電線とする
  • アッテネーター(音量調節器)を設ける場合は3線式配線とする
  • スピーカーの配線を系統別に単独とする

 

放送系統の複線化

所轄消防の指導により、放送系統が延焼してしまった場合に
放送区域の大きな喪失を避けるため、スピーカーへの配線を1台ごとに二重化した
「複線方式」が求められます。

アンプから2系統の配線を敷設するのは不経済なため、
放送系統を分割するリレー(回路分割装置)を設け、
端子盤から先で2系統に分割する方法が採用されます。
回路分割装置を使用する場合、放送系統は各階ごとに分割します。

 

放送設備の電源装置

 警報設備としての放送設備は、非常電源を搭載することで
停電時に火災が発生しても支障なく鳴動し、避難を促すという機能が求められます。
消防法により
「非常電源の容量は機器を10分以上作動出来ること」
「常用電源が停電した際は、自動的に非常電源に切り替えられること」
「常用電源が復旧しても、自動的に非常電源から常用電源に切り替えられること」
などが定められています。

 

非常電源は通常、放送設備の主装置にニッケル・カドミウム電池など、
直流電源装置が内蔵されています。
火災時や避難訓練時のみ放電する電池のため、
トリクル充電により常に満充電が維持できるように設定されています。

電池の寿命は短く、4年程度で交換が必要です。
定期点検で電池の寿命を確認し、
火災時に「電池の容量不足により放送が鳴動しなかった」ということが無いよう、
定期的に交換を行わなければなりません。

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