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冷温水発生機|特定技能 ビルクリーニング

植村 貴昭
この内容を書いた専門家
元審査官・弁理士
行政書士(取次資格有)
登録支援機関代表

冷温水発生機

ビルメンで2,3年経験を積むと、大型の商業施設に責任者として転勤させられます。
(嫌々!)
そこで目にするのが巨大な冷温水発生機です。
ちょとした小さな“軍艦”みたいなそれに、驚かされました。

「冷温水発生機」という言葉を聞いて、どういうものか分かる人は少ないでしょう。
冷温水発生機とは、ビルなどの大きな建物の冷暖房をする熱源機です。

したがって、わざわざその場所に行かないと見る事はないでしょう。
しかし、50年以上も前から使われている技術で、ビル空調の世界ではメジャーな方式です。

大規模なビルでは、約6割は吸収冷温水機=冷温水発生機で冷暖房されています。
以降、吸収冷温水機といいます。

吸収冷温水機とは?

ここで不思議なのは、ガス等の燃料を燃やして冷房をするということです。

ビル空調では、コンプレッサーでフロン等冷媒を圧縮液化し、
その液が気化膨張する際に温度が低下する原理(ヒートポンプ)により
冷房をする方式があります。

家庭用エアコンもこの方式です。

一方、吸収冷温水機は、水が蒸発する時に気化熱を奪っていきますが、
この気化熱を利用して冷房をする方式です。

水は、大気中では100℃で沸騰します。
しかし圧力を下げて真空に近い状態にすると、5℃ほどで沸騰します。
冷房に使用する冷水が通ったチューブを真空容器に入れて、
そこへ水を滴下するとチューブ表面に落ちた水は熱を奪って蒸発するので
チューブの中の水が冷やされます。

ここで、水を循環利用するために臭化リチウム(LiBr)という物質を使います。
臭化リチウムは海水から得られる臭素(Br)と
リチウム(Li)から作られる白色の結晶で、
非常に吸水性に優れているという性質を持っています。

臭化リチウム水溶液は、水を吸って徐々に薄くなり水の吸収が出来なくなりますので、
別の部屋に送って加熱し、水を水蒸気として蒸発させます。
この水蒸気は水に戻され、再びチューブを冷却する滴下水として利用させます。

冷房時の構成と作動原理

それでは、吸収冷温水機の冷房時の構成と作動原理を整理しておきます。

吸収冷温水機は、大きく分けて、
「吸収器」、「再生器」、「凝縮器」、「蒸発器」の4つで構成されます。

●吸収器:蒸発器で気化した水蒸気を吸収する所です。

 蒸発器で気化した水蒸気をそのまま放っておくと、
 蒸発器の圧力が上昇して冷媒が気化しにくくなってしまい、
 冷房能力が下がってしまいます。
 そこで吸収器では、水を吸収しやすい臭化リチウム水溶液を流して水蒸気を吸収します。
 そのため、蒸発器の圧力は常に低い圧力のまま保たれます。
 臭化リチウムは水を吸収する時に発熱するので、冷却水で冷却しながら吸収します。

●再生器:薄くなった臭化リチウム水溶液を濃くする所です。

 吸収器で水蒸気を吸収して薄くなった臭化リチウム水溶液は、
 再生器に送られて都市ガス等の燃料で加熱されます。
 加熱された臭化リチウム水溶液は、吸収した水を水蒸気として分離し
 濃い臭化リチウム水溶液になり、吸収器に供給されます。

●凝縮器:再生器で分離された水蒸気を水に凝縮する所です。

 再生器で分離された水蒸気は、冷却水で冷やされ液体の水に戻ります。
 水は蒸発器に供給されます。

●蒸発器:冷房用の冷水を作る所です。

 空調機の室内機で冷房に使用され温かくなった15℃の水は、
 蒸発器の中にあるチューブの中に流れます。
 そのチューブに冷媒の水を滴下します。

 蒸発器の中は、ほぼ真空(1/100気圧)になっているため、
 滴下した水がチューブに当たった時、約5℃程度で蒸発します。
 蒸発する時の気化熱でチューブの中の冷水が冷やされて、約7℃の冷水が作られます。

冷房と暖房の切り換え

冷房と暖房の切り換えは、内部の2個のバルブの開閉で行います。
このバルブが大きく重いため、シーズン前の切り換えは、大変な労力を必要としました!

再生器で吸収器から送られてきた濃い臭化リチウム水溶液を加熱し、
水を水蒸気として分離します。

この水蒸気を直接蒸発器に導きチューブ内に流れる水を加熱して、
水蒸気は凝縮し水になります。
水は吸収器に戻り臭化リチウム水溶液を希釈します。

吸収冷温水機の特徴

メリットとデメリットを整理すると以下のようになります。

吸収冷温水機の導入は、
省エネ法改正に伴う電気需要平準化の対策として有効と言えるでしょう。

◎メリット

 〇ノンフロン空調
  冷媒にフロンではなく水を使用しているので、環境性に優れている。

 〇廃熱や自然エネルギーが利用できる
  吸収冷温水機は、熱源があれば作動するので、工場の廃熱や自家発電設備の廃熱、
        バイオマス燃料といった様々な熱源を利用することが出来る。

 〇リサイクル
  吸収冷温水機は、解体して鉄の外板や銅の配管などがリサイクル出来ます。
  また、臭化リチウム水溶液も高価な資源なので、回収後再生処理されて
  再び臭化リチウム水溶液として再利用されます。

 〇契約電力の削減
  電気の代わりに、ガス等の燃料で冷暖房を行うので電力使用量を抑えられ、
  契約電力を下げることにより電気料金の節約になります。

◎デメリット

 〇冷房・暖房の切り換えが簡単ではない

  冷房切り換え
  冷却塔に水を張り、暖房モードから冷房モードに切り換えます。

  暖房切り換え
  暖房運転では冷却塔を使わないので、凍結防止のため、
  冷却塔の水を抜き暖房モードに切り換えます。

 〇専門業者によるメンテナンスが必要
  内部が1/100気圧という高真空状態を維持する必要がある。

 〇個別空調向きではない

いずれにしても、電気料金の節約の利点はあるものの、
シーズンの前の切り換え作業は大変だった記憶があります。

吸収冷温水機のメリットデメリット

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