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直流と交流|特定技能 ビルクリーニング

植村 貴昭
この内容を書いた専門家
元審査官・弁理士
行政書士(取次資格有)
登録支援機関代表

直流と交流

身近に使用している電気には、直流と交流があります。
壁のコンセントから取れる100Vの電源は、50Hz又は60Hzの交流電源です。
対して、乾電池やACアダプターから得られる電源は直流電源です。

直流電源は、常に一定の電圧を維持している電源で、
乾電池や蓄電池は使用するほど消耗し電圧が低下していきますが、
プラス方向の電圧であることは変化しません。
交流電源は、一定の周期で電圧のプラスとマイナスが変化する電源となります。

家庭内で使用している電気機器は、交流のままで使用出来ない場合が多く、
交流を直流に変換して電源供給しています。
小型の電気機器に100Vは電圧過大であることも多いため、
5~24V程度の小さな電圧に変換している場合もあります。

家庭内で使用している電気のほとんどは直流であり、交流で送電される住宅では、
直流に変換する際の電力ロスも大きく発生しています。
しかし、発電所から変電所を経て家庭に届けられる電源は交流となります。

このような現況からすれば、
「電力会社の発電所で直流電源を作り、直流のまま家庭に送電する」ことで、
電力ロスが無くなると思いがちですが、
発電所から家庭まで直流で送電する方式は事実普及していません。

国内の直流送電方式で有名なものには、電気鉄道の電源があります。
直流電源はモーター類の動作が良好で、低速・高速時の反応が良いため、
電動機の運転がほとんどを占める電気鉄道には最適です。

業務施設や住宅に供給する電力は、電動機の運転に限った使用方法ではなく、
電熱、電子機器の駆動など、数多くの用途があります。
電力の汎用性が重視されるため、まだまだ交流送電が主流となります。

直流電気の送電先と交流電気の送電先

交流送電の利点

  • 変圧が容易

交流送電の最大の利点は、変圧可能なことです。
発電所から供給される電圧は数十万Vという高い電圧で送電され、
都心部に近づくにつれて降圧させることが可能です。

戸建住宅など小規模の需要家では200Vや100Vの電圧が供給されていますが、
交流送電では変圧器によって電圧を自在に調整可能なため、
発電所から住宅の付近まで6,600V、住宅の付近の柱上変圧器で200Vに降圧する
といった必要な場所ごとに電圧を調整する方法が採用出来ます。
この手法により、送電線の設備コストを最小限に留めるこが可能になります。

交流電源の容易な電圧交換に対し、直流電源を降圧させるには、
直流を交流に変換させるコンバーターを通し、交流を変圧器で降圧させ、
再度コンバーターを通して直流に変換するという手順が必要です。
高圧DC→高圧AC→変圧→低圧AC→低圧DCという流れになります。

コンバーター本体のコスト、変換時のロスなどが無駄なエネルギーになり、
コンバーターの設置に掛かる費用やスペース、メンテナンス等のボリュームも増えるので、
一般に普及しておらず直流への変圧は難しいとされています。

  • 事故時の遮断が容易

交流回路は、プラス電圧とマイナス電圧を交互に繰り返す特性があります。
電気を停止させたい時や、事故により強制的に遮断しなければならない場合、
電流ゼロの瞬間を利用して遮断すれば、
電気系統や遮断器本体に与えるショックを最小限に出来ます。

直流送電では、常にプラス方向の電圧が維持されているため、遮断が難しいという特性があり、保護装置の規模や構造が複雑かつ大規模になってしまい、コストアップにつながります。

交流電源の欠点

  • 目標電圧よりも高電圧が必要

白熱電球や電熱機器に電圧を印加(いんか)した時、
交流電源は常にプラスとマイナスの変化を繰り返しており、
電圧と電流が0になる瞬間は電力が発生せず、発熱が出来ません。
所定の熱量を得たい場合には、目標電圧よりも大きな電圧を与えなければなりません。

交流電源を考える場合「正弦波の最大値」という考え方があります。
一般的に100Vと呼ばれるのは電圧の実効値であり、
実際にはV2~0~-V2という電圧の移り変わりが発生します。
実効値で100Vの電圧を印加した電気機器には、瞬間的に141Vの電圧が印加されます。

直流電源であれば100Vは常に100Vのままであり、若干の脈動を除き、
プラス・マイナスの変動も無く一定値を示します。
交流の場合は100Vを確保するために
141V~-141Vという変動電圧に耐える電気機器が必要なため、
本来100Vの性能で良い電気機器であっても、141Vの絶縁性能が求められます。

つまり、直流機器よりも交流機器の方が、
より高い電圧に耐えられる絶縁性能が必要となります。
絶縁性能の強化により電気機器が大きくなったり、製造コストが高くなることも考えられます。

  • コイルとコンデンサ成分の影響を受ける

交流電源はコイルコンデンサの影響を受けるという特性があり、
これは交流の欠点として挙げられます。
電力分野ではフェランチ効果と呼ばれる送電端電圧よりも受電端電圧が高くなる現象があり、
長距離を埋設した電力ケーブルで発生します。
ケーブルと大地に発生する静電容量が影響し、
進相コンデンサを設置したのと同じように力率を進ませます。

電力系統が進み力率側に振れ過ぎると、
送電電圧よりも受電電圧が高くなる系統異常につながります。
直流系統であればフェランチ効果による電圧の影響はなく、安定した電力供給が可能です。

直流電源の利点

  • 送電線が単純化

直流で送電する場合、交流送電と違い、
どの電圧域であってもプラスとマイナスの2本の電線で送電可能です。
交流送電も電線2本で送られますが、単相2線式は100Vのみに限られ、
効率が悪いため送電線では採用されていまません。

  • 力率を考慮しなくて良い

直流送電は、電圧と電流に位相差がないため、進みや遅れが発生しません。
交流回路では問題となる「無効電力」を0として送配電機器を設計出来ます。

直流電源の欠点

  • 電流遮断が難しい

直流送電にはいくつかの欠点があります。
交流電源はプラス・ゼロ・マイナスという電圧周期を繰り返しているため、
電源を遮断する時はゼロの瞬間を狙って、最もショックの少ない電源遮断が可能です。

直流電源は、常にプラス方向に電圧が印加されているため、電圧ゼロの瞬間がありません。
電流が大きく流れている中での強制的な遮断は、遮断失敗につながるため危険です。
切り離した部分にアークが継続発生して電流が遮断されず、
放電が引き起こす熱による損傷も懸念されます。

直流の遮断器では、コンデンサを開極部分に並列接続し、
遮断時には直流回路にコンデンサ放電によって電流を重ね合わせ、
電力ゼロの瞬間を強制的に起こして遮断するという技術が使われています。
構成が複雑であり、交流回路よりも機器が高価で大掛かりです。

  • 電食作用が強い

直流電源は常にプラス方向とマイナス方向が一定であり、
マイナス方向側の電路に接続された金属体は電食作用に晒されます。
電源においては、プラス側では防食作用が有りマイナス側が腐食しやすくなる
という特性があります。

電気鉄道では、枕木程度で大地とレールは完全に絶縁出来ないため、
大地を通じて付近に迷走電流を流出させます。
線路に並走して埋設されている金属製の水道管や電配管は、
迷走電流を受けて腐食するという問題が発生します。

  • メンテナンス部品が多い

交流の電動機は鉄心を固定し磁石を回転させる方式のため、
磁石の軸受け部品がメンテナンス対象となります。
点検項目が少なく、機器の摩耗を最小限に留め、メンテナンスコストが低減出来ます。

直流の電動機は磁石を固定し鉄心を回転させる方式のため、接点部品が多くなります。
スリップリングやブラシを用いた電動機は、摩耗による汚損や劣化が著しく、
清掃頻度や部品交換頻度が高いという特性があります。
交流電動機よりもメンテナンスコストが高いのは欠点として挙げられます。

次回は地域による周波数と電圧の違いを紹介します。

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