訴訟の流れ(警告から判決の確定まで)
植村 貴昭 この内容を書いた専門家 元審査官・弁理士 行政書士(取次資格有) 登録支援機関代表 有料職業紹介許可有 |
訴訟の流れ(警告から判決の確定まで)
1 はじめに
訴訟において、鉄則は、知財に関する訴訟だけでなく一般訴訟でも同じなのですが、
裁判官にいろいろ聞かれると負けるということです。
特許等の特許庁のレベルでの審理である審判であっても、
同じようなことは多く起こります。
特に、無効審判などでは、多く起こります。
分かりやすく説明すると、裁判官(審判官)は判決をある程度煮詰まってくると、頭の中に論理を作成します。
その時、その論理を否定する事実が、あとから実は、ということで出てくると困るのです。
特に、上級審で、
「下級審では聞いてもらえなかったら言う機会が無かったが、実は、こんな事実があるのです」
といわれると困ると考えるのです。
そこで、下級審の裁判官としては、
「聞いたけど、特段新しい事実や、反論が無かったからこのような判決になりました!」
と言い訳をしたくなるわけです。
普通は、聞いてもらえたからといって、裁判官の心証を作れたぐらいの事実は
既に出ており、それをもとに、頭の中の判決を判断して作っているので、
通常であれば裁判官が頭の中で作っている判決をひっくり返すような事実が、
聞かれたからといって急に出てくるわけも無いのです。
そうすると、裁判官は、
先ほど言ったように、聞いたけど特段、何もなかったということで、
安心して事実を認定して判決をかけるということになるわけです。
というわけで、裁判菅にいろいろ聞かれると、
裁判は負けるという一般原則があるわけです。
2 知財裁判の特色
知財裁判の特色としては、何と言っても、
侵害訴訟と並列に、無効訴訟を起こされる!
ということになります。
つまり、攻撃側と防御側とは、2つの裁判(審判)で争うことになったりするのです。
そこが、普通とは異なる特色かと思います。
元審査官の立場で、この辺りを考えてみると、
正直、裁判の勝敗は分からんといわざるを得ません。
結構ひっくり返るなぁというのが、私の印象です。
特に、5年ぐらい前までは、権利者がほぼ負けるという風に感じておりました。
特に、無効審判で裁判の基礎となっている特許権が
無効とされてしまうということが、往々にしてありました。
むしろそれが普通でした。
ただ、最近は、特許権者の特許が無効となる可能性は減ってきていると思っています。
なぜそうなっているのか、私が考えるに、
前述のように、ちょっと前までは、権利者が負けまくっていました。
そうしてたら、特許とか知財はいらないということになってきたのです。
それは、せっかく、わざわざ作った知財高裁の存在意義を実は失わせることだったのです。
そこで、最近、といってもここ5年ぐらいですが、権利者が勝つ確率が高くなってきたのです。
その原因の一つが、
無効にするためには、複数の文献を組み合わせる動機づけを要求するようになってきたということがあります。
動機付け無し|拒絶理由通知への対応編
これは、引用文献1と引用文献2とを組み合わせると、対象の特許権になるのは間違いが無いが、
引用文献1と引用文献2とを組み合わせる動機づけが、引用文献1に何らかの形で無いと許されないということです。
前は、単に技術分野の共通性などで足りたのですが、
今は、動機づけが引用文献1に記載されている必要がある等、運用されることになりました。
極めて当たり前だと思いますが、一応、現在の審判・裁判ではこのような運用になっております。
その結果、無効になる確率が大幅に減ったということが、その原因なのです。
後は、容易の容易などでも、無効にならないという運用が明確化されたということもあろうかと思います。
これについては、私も、大きく寄与させていただいたと自負しております。
3 知財裁判の流れ(フロー)
(1)警告
通常は、権利者(特許権者、意匠権者、実用新案権者、商標権者、不正競争防止法の商品等表示者)等から、
警告書を送ることから始まります。
もちろん、これは必須ではないです。いきなり(2)の裁判から始めることも可能です。
ただ、裁判は費用も掛かりますし、
多くの権利者は、損害賠償まで取ろうとせず、単にやめてほしいだけのことも多いので、
この段階でやめてくれるとそれで話が終わるため、警告することが極めて多いです。
ただ送るだけではなく、相手の対応を見て、
もし止めない場合は、3回ぐらいは普通やり取りをします。
そして、これはどうにもならないな、となったところで、大抵は
最後の期限を与えて、それでも止めない場合は裁判をする、と通知して警告は終わります。
もちろん、相手からの反論を見て、権利者側が勝てないとして、
あきらめることもあります。
また、実施権などの話し合いになることも多いです。
(2)訴状の送達
訴状を提出し、相手方に裁判所が送ることによって裁判が始まります。
通常、訴状に対しては答弁書を提出することになります。
そして、その状態で第1回口頭弁論が始まります。
多くは口頭弁論から、弁論準備手続等の簡易な手続きに移行します。
正式な口頭弁論は、裁判官も大変ですので、弁論準備手続きなどが使われるのが普通です。
さらにその答弁書に対する反論、その反論、・・・反論
という風に、
原告側は 原告第1答弁書、原告第2答弁書・・・・・以下続く
被告側は 原告第1答弁書、原告第2答弁書・・・・・以下続く
を互いに出しつつ、そのたびに、裁判所に行って対応していくことになります。
(3)準備的口頭弁論
訴訟なので口頭弁論をすることになるのですが、
正直、それだと、裁判官も形式ばっていて率直に聞けなかったりするので、
たいていは(私の場合は100%これですね)、この手続になります。
法廷ではなく、会議室のようなところで審理が開かれます。
裁判菅も高いところではなく、同じ机につきます。
率直に互いの意見を言うということになっていますが、
そこで変なことを言うとまずいので、非常に気を使います。
基本的に、一方的にこちらが有利になる主張というのは少ないため、
揚げ足を取られる可能性がいつもあるからです。
前述の(2)準備書面は、この準備的口頭弁論の前に、裁判所と相手方にFAXしておきます。
(4)無効審判等
たいてい、この訴訟が始まると、どこかの時点(第一回の口頭弁論のあとが多いかも)で、
被告側から、特許庁に対して対象の権利(特許、商標、意匠・・・)が無効であるとの、
無効審判が始まります。
その為、裁判所での訴訟と、特許庁での無効審判とが並列して、審理され、
一方の流れが他方に影響を当然に及ぼします。
(5)先行技術等検索(先行技術調査)
この無効審判においては、過去の技術等がどこまであるかが本当の争点になるため、
その調査(検索)がとても大事になってきます。
過去の私の経験では、非常に有利に原告側で戦っていて、これは勝ったなと思っていたら、
アメリカの文献で似ているものを見つけ出されて、結果負け(和解で終わりましたが)となった事件もあります。
悔しかった・・・。
(6)結審(和解)
たいていは、第1審で終わることが多いです。しかも、第一審の途中で和解となることが多いです。
なぜなら、よほどのことがない限り、海賊版とかでない限り、たいていは
相手の主張もそれなりに理由があるからです。
(7)上級審への控訴等
納得できない場合は、さらに上級審(知的財産高等裁判所)への提訴ということになります。
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©弁理士 植村総合事務所 所長 弁理士 植村貴昭