「ふるふる」特許と「セルフレジ」特許1
植村 貴昭 この内容を書いた専門家 元審査官・弁理士 行政書士(取次資格有) 登録支援機関代表 有料職業紹介許可有 |
「ふるふる」特許と「セルフレジ」特許1
この2つの判決は、ビジネスモデル特許とも判断されるため、
ビジネスモデル特許のサブフォルダ内にて取り扱っております。
―民事訴訟と行政訴訟―
問題の所在
ここ最近、2件の特許に関係する訴訟についてのニュースが流れました。
1件目
1件目は、京都にある株式会社フューチャーアイ(フュ社)が保有する特許を、
LINE株式会社(LINE社)が<ふるふる>の機能に使用したことに対して、
特許権侵害が認定された件です。
2件目
もう1件は、東京にある株式会社アスタリスク社(アス社)が保有する<セルフレジ>に関する特許に対して、
株式会社ファーストリテイリング(ファ社)が特許は無効と主張し、知財高裁がその主張を却下した件です。
どちらも特許にまつわる訴訟ですが、その性質は異なります。
1.<ふるふる>事件
以前のLINEの仕様には、友達を追加する際の1つのやり方として、
端末を接近させて端末を振ると、IDが相手の端末に表示される機能がありました。
この事件は、LINE社の<ふるふる>機能にフュ社の特許に抵触する技術が使われており、
フュ社に無断で<ふるふる>を実装した行為が不当行為にあたるから、
LINE社に対してフュ社がその不当行為で被った損害額を請求した民事訴訟でした。
日本の裁判制度は三審制をとっており、今回は東京地裁(第1審)で判決が出されました。
この判決の効力はLINE社にのみ及びます。
ですので、もしも別の会社が<ふるふる>を実装したとなれば、
フュ社は、今度はその別の会社に対して特許権侵害訴訟を起こさないといけません。
今回の判決を使って別の会社に文句を言うことはできないんですね。
なお、仮にフュ社が特許権侵害訴訟に敗訴したとしてもフュ社の特許は有効なままです。
特許が無効になるのは次で説明する、特許無効審判という手続きを経なければなりません。
2.<セルフレジ>事件
これに対して、2021年5月20日に知財高裁で出された<セルフレジ>特許にまつわる判決は、
ファ社がアス社の特許の有効性を争った事件です。
特許権侵害は、有効な特許権が存在しているからこそ起こります。
では、もしも特許が無効だったらどうでしょう?
無効理由にもよりますが、特許が無効と判断されると特許は初めからなかったものとなります(遡及効といいます)。
特許をするのも無効にするのも特許庁です。
そこでファ社は、まずは特許庁にアス社の特許は無効だと主張する無効審判をかけました。
今回の事件は、その審決が不当として争った事件であり、特許庁の審決の適否を判断する審決取消訴訟に分類されます。
これは行政訴訟でして、特許権侵害事件が分類される民事訴訟とは違います。
ちなみに、特許法では特許権侵害に対して刑事罰も規定していますから、刑事訴訟もあり得ます。
本件は、請求棄却となりましたので、これから審理が特許庁に戻され、特許の有効性が確定する運びとなるでしょう。
3.無効審判とは?
無効審判は審判官(審査官よりも上の人)が複数人で検討する合議制を採用しています。
そこで、審決は複数の審判官が話し合って出した結論である、
ということを考慮して、裁判制度は三審制ではありますが、
審決取消訴訟は一審級を省略し、知財高裁に提訴します。
これは侵害訴訟の一審が地裁であることとは異なります。
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