PCT(特許協力条約)の流れ(フロー)
植村 貴昭 この内容を書いた専門家 元審査官・弁理士 行政書士(取次資格有) 登録支援機関代表 有料職業紹介許可有 |
PCT(特許協力条約)の流れ(フロー)
出願前のフローについて
ヒヤリング(コンサルティング)
出願(申請)のための書類を作成する必要があることから、
発明の内容やどのようにその権利を利用したいのかなどを聞く、
ヒヤリング作業が必要になります。
弁理士のコミュニケーション能力と想像力が試される瞬間です。
検索(調査)必要期間:1週間程度
自分でやる場合には、ここから始めますが
弊所では、発明が過去に出ていないかの検索(調査)は無意味だと考えておりますので、
基本的には行っておりませんが、どうしても行う場合はこの段階で行います。
なぜ無意味なのかは
特許調査(特許検索)の必要性ってありますか?
をご参照ください。
書類作成 必要期間1~2か月
1月~2月程度で、出願書類(申請書類)を作成します。
その際に、弊所で気を付けていることは、
-
- お客様がやりたいことに即する出願となること
- 特許権が取れるように幅広い記載としておき、補正の余地をできるだけ残すこと
- けん制効果を狙って、できるだけ広い権利を記載すること
- 競合他社が逃げるとしたら、どう逃げるか検討し、逃げ道を塞ぐ用意をすること
- クライアント様が今後変更するとしたらどうするか
です。
もちろん、状況やお客様のご要望に応じて、すべてできるわけではないですが、
できるだけそうしております。
修正 必要期間1~2週間
作成した書類が、最初から完全ということは多くありません。
そのため、クライアント様の指導などを受けて、各種修正いたします。
出願(申請)までは、ヒアリングから2カ月程度が標準
特許等の知財権の取得(著作権を除く)には、出願(申請が)必要です。
その為の書類を国際事務局に提出いたします。
その日が、出願日です。
PCTにおける各手続きの基本の日になります。
(ただし、優先日がある場合は、優先日を基準とすることが普通です。)
出願する際に、全ての国を指定する(全指定)のが普通なことは、
PCT(特許協力条約)で最も重要なことを参照してください。
この全指定をすることによって、
全ての締約国153か国に、出願したことになります。
(台湾など非加盟国に出願の際には、別途ご相談ください。)
(ただ、後述する6の各国移行をしないと、
移行しなかった国は取り下げられたのと同じ扱いをされます。)
国際調査報告 出願日から2~3カ月程度
3カ月ほどで、国際調査機関(実は、日本特許庁(審査官))から、
国際調査報告(ISR: International Search Report)がきます。
この報告書は、日本の審査官が作ったものなので、かなりの信ぴょう性があります。
ただ、よほどのことが無い限り、新規性と進歩性がある=登録性(A評価)あり
との評価がなされることは少ないです。
なお、このISRで書かれてくる評価ですが、以下のようなっております。
-
- X は、1つの文献にその請求項の内容は記載されている
= 新規性なし & 進歩性なし - Y は、2つの文献を合わせると請求項の内容は記載されている
= 新規性ありだが進歩性なし - A は、新規性あり & 進歩性あり
- X は、1つの文献にその請求項の内容は記載されている
ということです。
19条補正
植村は推奨しておりませんが、
ISRが来てから所定の期間内に、補正することができます。
この補正がうまくいくと、A評価を貰える可能性がありますが、
あまり意味がないので、植村は推奨しておりません。
国際予備審査
同じく、植村は国際予備審査を申請することも推奨しておりませんが
この審査の結果に基づいて、補正し、この補正がうまくいくと、
A評価を貰える可能性があります。
しかし、審査官が、甘い評価をすることはあまり期待できないため、
ここで、A評価を貰うためには、かなりの限定をする必要があります。
そのため、植村は推奨しておりません。
A評価で推奨しないことについて、質問が来ておりましたので、
回答しました。本ページの一番下に回答を入れてあります。
各国移行(30カ月)
制度説明
各国移行は、出願日(優先日)から、30カ月以内にする必要があります。
(ルクセンブルク20ヶ月 タンザニア21ヶ月となります)
なお、30カ月は必ず30カ月は大丈夫ということで、
国によっては、31カ月、32カ月可能な国もあります。
この時に、現地語の翻訳文まで要求するかは国によって差があります。
ただ、安全を見るなら、翻訳期間が1カ月程度は必要なため、
出願から29カ月後までには、
現地代理人を決めて指示する必要があります。
たとえ全指定してもこの時に、移行しなかった国は、
取り下げられたものと扱われます。
費用
移行時等の費用は、特許:PCTから外国移行・外国出願 をご参照ください。
この日を過ぎるまでは、
-
- 世界特許出願中
- 国際特許出願中
と言っても嘘ではないのです。
このような地位を利用して、出資を募る、ということも可能です。
この日までゆっくり考えられる
このPCT出願をする最大のメリットは、
① 30カ月(2年半)ゆっくり、どの国で権利を取るかを考えられる。
その時にビジネスになりそうな国を開拓したり、
その状況がどうなるか見ることができ、
その結果に応じて、国を選べる問うことが最大のメリットなのです。
(出願以外に、それまでお金がかからない。)
② 全世界に出願しているという状況なので、
出資を募るなどの場合でも有利に働かすことができる。
ということなのです。
各国移行期限が30カ月より長い国(31カ月等)
アメリカ:国内移行(30ヶ月以内、翻訳文不要)、翻訳文提出(USPTOからの補正指令から2ヶ月以内)
EPO(ヨーロッパ):31ヶ月以内(30ヶ月の時点では必要な手続きなし)
韓国:31ヶ月以内(30ヶ月の時点では必要な手続きなし)
中国:32ヶ月以内(30ヶ月の時点では必要な手続きなし、ただし30ヶ月を超えて移行する場合、延長料が必要)
シンガポール:30ヶ月以内に延長手続きをすれば、翻訳文提出期限を30ヶ月までは延長可能。
マレーシア:30ヶ月以内(英訳もこの時点で必要)合理的理由がある場合は特許庁の裁量で延長があるかも。
インド:
オーストラリア:
ロシア:
南アメリカ:
各国移行の後(国内段階)
各国移行の後には、直接その国にその国の国民が出願したのと同じ流れになります。
ただ、ヨーロッパの場合には、EPOという統一的な機関が審査をします。
ただし、特許成立後は再度、ばらばらになり、国ごとに権利が成立し費用なども国ごとに別々に支払う必要があります。
※ なお PCTから日本に移行させた場合も同様です。
関連ページ
PCT全般については、PCT出願(国際特許申請)をするか否か:費用と判断基準をご参照ください。
PCTの出願には以下の流れが基本になります。
なお、費用については、PCT(特許協力条約)の費用のページです。
また、以下の内容を理解する助けとして、
PCT(特許協力条約)でもっとも重要なこと
も参照いただけると、理解が進むと思います。
いただいた質問
Question
19条補正時のA評価とはどのようなものでしょうか。
植村先生はA評価を得ることは推奨されていませんが、
Answer(植村回答)
そのままの請求項の内容であれば、
日本や各国に移行した際にそのまま登録査定をいただける可能性が高まったとは言えます。
一概にそうとは言えない場合があります。
©弁理士 植村総合事務所 所長弁理士 植村貴昭