第9回 自力(自分)で特許出願をする方法
植村 貴昭 この内容を書いた専門家 元審査官・弁理士 行政書士(取次資格有) 登録支援機関代表 有料職業紹介許可有 |
自力でできる 特許・実用新案の書類を書く方法講座
第9回 発明を実施するための形態の記載の概要
1 はじめに
この「発明を実施するための形態」こそが、弁理士の腕の見せ所の一つです。
ただ、前にも言いましたが、本来的にはこの部分の重要度は
特許請求の範囲よりもかなり低いです。
特許請求の範囲の重要性1|特許要件
を参照ください。
さて、重要度が低いのになぜ、この部分が大変なのでしょうか。
まず、確かに、重要度は特許請求の範囲と比べて低いのですが、
特許請求の範囲に記載した発明について、審査官からすべて否定される恐れがあります。
(むしろ、それが普通です。それも、上記リンクに書いてあります。)
その場合に、どうすればいいのでしょうか。
その時に、この発明の詳細な説明部分(図面を含みます)から、
構成を足す必要があります。
この詳細な説明部分を含めて、特許出願後には、新しい事項を加えることはできません。
(新規事項の追加といい、これ自体が特許が登録できなくなる要件です。)
その為、最初に拒絶理由通知が来た時に、加えそうな内容をこの発明の詳細な説明部分に、
書いておく必要があるのです。
そして、ある程度予想できるとはいえ、審査官がどのようにして、
今出願している特許請求の範囲を否定してくるかわからず、
どのような文献を引用文献としてくるかもわかりません。
その為いろいろな部分を、後から足せるように予想して、十分に書く必要があるのです。
現実には、出願時に全く想定していない部分を急遽、発明のポイントにし、
それを主張したことも、何度もあります。そのため、予想が不可能なのです。
その結果、弁理士は、すべての部分を分厚く書いていくという必要性があるため、
しょうもないことまで、書いていくことになるのです。
例えば、ねじの系だったり、ねじの場所だったりの可能性もあるのです。
2 困ったお客様
さらにいうと、お客様が想定していない実施例を勝手に加えることさえあります。
たまに、善意から加えてあげたのに、自分が話したものと違うといって
消させる方がいますが、
弁理士としては善意からしてあげたのに、そんなことを言われると、
やる気が一気に下がります。
ああそうですか、じゃあ、あなたがしゃべった内容だけかきますね。
ちなみに、そっちの方が簡単だし、責任もないからいいのだけど、
本当は長くやっている私たちは、必要だと思って、あえて、大変だと思ったのに、
やってあげたのに!!と、心の中で思います。
もちろん、このことを話はするのですが、全く聞き入れない方もいます。
そういう時には、善意が踏みにじられて悔しいですが、したがって消すことになります。
なにもいいことはないのに、・・・・、でも、これを言ったら、
むしろ、この段階で、怒られそうなので、仕方がないと思ったりするのです。
(たいていそういう方は、自分の考えにとらわれていて、私たちの話は聞いてくれません。
自分が話してないことを加えた、との一点張りです。私たちが、自分の発明を理解していないと思うようです。
もちろん、こちらは、お話しいただいた部分は当然に書いたうえで、
さらに、加えているのですが・・。)
以上、植村の愚痴でした。
なお、特許請求の範囲でも、わざとお客様のことを考えて広くしているのに、
同じようなことを言う方がいます。
例えば、この発明は、物を収納する全部に使えるかもと思って、
あえて「鞄」という言葉を使わずに、
「携帯可能な物品収納具」と書いてあげてたのに、
お客様が説明したのは「鞄」のときに、鞄と書いていないと言われるお客様もいます。
(この方が、鞄だけでなく、ほかのものに全て権利範囲が広がるので、圧倒的に有利です。)
そういう時にも、説明を試みるのですが、
そういう方の半分は、聞き入れてくれません。
そういうときも、仕方なく、狭い「鞄」にしてしまいます。
植村の愚痴2でした。
3 小結論
以上より、発明の詳細な説明は、非常に細かく、想像力を駆使して、変形例、発展例、などを書いていく必要があるのです。
その為、素人が書くのはとても難しいところがこの部分です。
また、発明を説明することも、簡単なようですが、言語化するのはとても難しいです。
文章を書くって、本当に難しいのです。
さらに、繰り返しますが、変形例、発展例を書く、審査官の反論を予想して書く、どうでもいいとその時思うような内容まで書く、というのは、本当に難しいのです。
弁理士は、この辺りを手を抜いて、お客様が言ったことだけを書けば楽だなぁといつも思っており、この誘惑といつも戦っているのです。
しかしながら、ここで手を抜くと、拒絶理由通知の際に困ることになります。
その為、この誘惑と戦っていたりします。
さてさて、無駄に説明と、植村の愚痴1、愚痴2など書いてしまいました。
次の回こそ、具体的な書き方を説明します。
参考ページ
特許庁の参考ページは、こちらのページです。
まとめページは以下になります。
© 弁理士 植村総合事務所 弁理士植村貴昭