PCT(国際特許出願)で各国移行するか?否か、どの国に移行するべきかの質問への答え:選択・決定・決断のための視点(時間・費用(コスト)・事業化の程度・競合・情熱)
植村 貴昭 この内容を書いた専門家 元審査官・弁理士 行政書士(取次資格有) 登録支援機関代表 有料職業紹介許可有 |
PCT(国際特許出願)で各国移行するか?否か、どの国に移行するべきかの質問への答え
本ページまとめ(弊所が伝えたいこと・お客様から頂戴したい情報)
欲しい情報① 移行するかしないか? 伝えたい情報① 外国出願は大変高い(特に、アメリカ、ヨーロッパ) |
弊所からの「各国移行のお尋ねメール」が来たら
このページを読んでいただいている方は、
主として、弊所から国際特許出願(PCTの出願)から
30か月が経過しようとしている状況になります。
(通常は、2年ちょっとぐらいで、弊所からお伺いのメールをしています)
そのため、現在ある、仮にPCT加盟国に仮に出している状態から、
それらの国の中で、権利化を望む国について
確定的に出願という状況にするか否かを弊所がお尋ねしている方
になります。
もちろん、他の事務所からも同じようなお尋ねがあると思いますので、
その方にも同じように参考になるように記載しております。
その前に「各国移行」って何?
各国移行と簡単に書きましたが、そもそも各国移行って何?という方もいると思います。
先ほどちらっと記載しましたが、もう少ししっかりと説明しようと思います。
まず、PCT出願(国際特許出願)のイメージを持っていただきます。
PCT出願(国際特許出願)とは、その出願をしたことによって、加盟国 153か国
(詳細については、経済産業省のPCT加盟国一覧)
の全ての国ついて、仮に出願したのと同じ状況を作り出せます。
しかし、これはあくまで「仮」であり、一定の期間をすぎて、何もしないと、
その仮出願は無かったことになってしまうのです。
この一定期間とは、前述の30か月であります。
しなければならない何かとは、各国移行なのです。
「各国移行」って何をしなければならないの?
では、各国移行のためにしなければならないことは何か?というと、
まず、外国への出願及びその後の対応は、各国の特許事務所を介して行う必要があります。
(日本など、大抵の国はそれを義務つけています)
そのため、
① 移行したい各国の事務所をそれぞれ選定する必要があります。
(当然、英語でのやり取りになりますし、信用できる外国の事務所というのは大変得難いものです)
② 各国の言語に翻訳する必要があります。
(当然、多くの費用が掛かります。)
③ 各国の特許庁に、出願書類、②の翻訳を提出し、出願費用を支払う必要があります。
(現地代理人の費用、現地特許庁費用が掛かります。)
この作業を、30か月の末日までに完全に終わらせなけらばなりません。
そのため、この30か月の2か月前までに指示をもらわないと、間に合いません。
間に合ったとしても、特急費用などが別に掛かってしまいます。
見積をください!
見積がほしい、その気持ちよくわかります。
その気持ちは大変よくわかります。
総費用の見積もりをくださいと簡単におっしゃる方がいます。
特許権を成立させるためには、様々な手続きがあり、
どれだけ審査官とやり取りするのかがわからないため、
登録になるまでの費用は、見積もることが大変に困難です。
50万円ぐらいで終わる可能性もありますが、
訴訟にまでもつれれば、1千万円(場合によってはもっと)まで膨れる可能性もあります。
各国移行の費用も、翻訳費用などは変化する可能性があります。
さらに、現地の事務所の料金体系によっては、見積もりを超えてくることも普通にあります。
先ほどの153か国について、見積もりを取るということが難しいこと、
ご理解下さい。
あと、何よりもですが、
日本だと見積もりについて無料ということが多いと思います。
しかし、世界的には見積もりは、労力が必要であり、有料なのが普通です。
そのため、現地の事務所に見積もり費用を支払うため、
見積もりに対して費用を頂戴してしまいます。
なお、だいたいの費用については、別途項目を設けて後述します。
なお、大体の費用でよければ、見積もることは可能です。
検討するための状況と視点
まず、各国移行しますかというお尋ねが来ているときの状況をお伝えしようと思います。
Q:何か悪い通知なのですか?
A:ご安心ください。全くそんなことはないです!
各国移行のお尋ねは、各国の特許取得の際に絶対に通らなければならないものです。
そのため、このお尋ねは、
-
- 出願後すぐに必要国の全てについて各国移行を完了してしまっている時
(=既に、完了している手続きをしますかとお尋ねしないのは当然ですが、
それでも、途中で国を追加したくなることもあるので、通常はお尋ねします。)
- 既にこの権利いらないですと弊所にお伝えしてもらっている時
(=既に、いらないと言っていただいているなら、これも同じく聞かないです)
- 出願後すぐに必要国の全てについて各国移行を完了してしまっている時
以外は、必ず、聞く通知なので、全く普通で当たり前のお尋ねです。
驚くことはまったくござません。
Q:今どんな進行状況:私の権利はどうなっているの?
A:これから各国へ移行して、各国の審査官と本当の戦いが始まるのです。
前述のように、今、PCT加盟国153か国の全てに”仮に”出願されているという状況です。
この状況は、30か月が過ぎるまでです。
それまでに、各国移行を完了させなければ、それ以外の国は全て取り下げられたものとして、
無かったものとして扱われます。
そして、その後、移行した各国について、直接その国に出願した出願と同じように扱われます。
ですから、まだまだ、各国において手続きは進みますが、
これからやっと移行した各国について本格的な、特許庁との権利取得のための手続(争い)が始まるということになります。
Q:では、最初から直接各国にしたかった、なぜこんな手続きが必要なの?
A:もちろんその方法はありましたが、30か月の時間をこのPCTにより買ったのです。
パリ優先権という制度があります。
この制度で、各国について直接移行させる方法がありました。
PCT出願をする時点で、権利が欲しい全ての国が確定していたのであれば、
このパリ優先権という制度を利用しておりました。
しかし、この期間は1年間しかありません。
つまり、たった1年間で、国を確定させる必要があり、
この1年間を過ぎると、国の追加が不可能となってしまうのです。
1年間(12ケ月)と比べて、
PCTの2年半(30か月)の判断期間をもらう
という意味で、大変意味があると思っております。
しかも、日本の場合の+約20万円程度でです。
さらに、特許庁からの助成の制度があるため、この差はさらに少なくなっています。
加えて、PCTを利用した場合、日本の審査請求料も安くなりますので、
使った方がいいと一般的に判断しているのです。
優先権と優先権が過ぎた後の対応(国内優先権、パリ優先権、PCT)
Q:移行しないとどうなるの?
A:その国について出願がなくなってしまいます。
PCT出願で仮に153か国について出願していても、
その中には当然、特許を取る価値のない国も多くあります。
太平洋の小さな国などはほぼ不要だと言って問題ないです。
それどころか、大抵の発展途上国では、特許は意味がありません。
そのため、移行は必要な国だけにすれば、十分です。
大抵は、
アメリカ、ヨーロッパ諸国、カナダ、日本、韓国、中国、シンガポール ぐらいでしょうか。
(中国については、微妙ですが、今後に期待です。)
この中から、必要な国を選べばいいのです。
もちろん、上記の国以外にも、
発明の内容によって、
事業化の進展などによって、
東南アジアなどが入ってもいいです。
Q:移行国はどのように選ぶの?
A:販売国(販売予定国)では必須、製造国(製造予定国)では要検討
移行国を選ぶ際のポイントは、
まず、その発明の製品を販売することが確定している国については必須です。
次に、販売の予定や希望がある国については、その程度などによって決めてください。
ただ、この移行のタイミングを逃すと、
その国では、権利が取れないことが確定してしまうので、よく考えて選んでください。
製造国は、単に製造するだけの国であれば基本的に取る必要はないです。
ただ、中国などのように、その国内で勝手にコピーされて、中国で売られるような国であれば、
それをやめさせるためにとっておくことも大事です。
ただ、後述するように費用が本当にかかるので、
よくお考え下さい。
以下は、過去に弊所に来た質問に対して私が回答した例です。参考にされてください。
まず、特許権は基本的に自身がビジネスをやっている国
又は、直近10~15年以内にビジネスをやる可能性の高い国に対して、
取得することが基本です。
ただ権利だけ持っていても、費用が掛かるだけになるからです。
また、日本以外の外国は、一般に日本の何倍もの特許権化するまでの費用が掛かります。
外国代理人は日本の代理人(私)よりも費用が高いことが普通です(日本は安い国だと思います)。
特に、アメリカ・シンガポールの現地代理人(弁護士)は大変高いです。
さらに、実費も一般に日本より高いです。特に、アメリカ・シンガポールは実費も高いです。
ビジネスをやる国であっても、その国における、売上高大きくない(人口が少ない)国は、
取る必要がないという風に考えることが多いです。
直近でいうと、シンガポール、韓国、カナダは人口も少なく、優先順位は一般的に低くなってしまいます。
中国などは、特許をとってどれぐらい役に立つかは未知数です。
外国企業が訴訟で勝つことはかなり難しいです。
しかし、特許を持たずに中国進出も危険性があるので、
お守り的に中国では取るという経営判断をする企業もあります。
以上の一般論でのお返事になってしまい、申し訳ありません。
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Q:実際の費用はいくらなの?
A:通常 1か国100万円が相場といわれています。国(アメリカ・EU)はもっと高いのが普通です。
費用は、通常1か国100万円が相場といわれています。
アメリカでは、もう少しかかる(150万円ぐらい)と思います。
ヨーロッパ(EU)ももう少しかかる(すべての加盟国でとなると300万円を超えるかも)と思います。
各国での費用は弊所も適宜計算できるように、頑張って下記のページを作っていますが、
残念ながらいまだ、ざっくりしかわからない状態にあります。
特許:PCT(国際特許出願)から外国移行の特徴・費用・期間について記載。パリ優先権などでダイレクト出願する場合も同様
これよりも正確にというと、見積をください、で記載したような状態になってしまいます。
ざっくりとしかわからず、見積もりの費用が掛かる可能性もあります。
この費用をみて、
つまり、この段階で追加投資(各国で特許を進めるか)をするか否かの判断
ができるチャンスなのです。
(「しない」というのも正しい選択です!)
そのため、この段階であえて。お伺いということで聞いています。
Q:高すぎない?
A:JETRO等の減免はあり得ます。
JETROや、自治体などが補助していることがあります。
ただ、大変申し訳ございません。
弊所では、サポート多少はできますが、弊所が主体となって、
申請するなどは行う力がございません。
なお、いかに情報だけ載せさせていただきます。
JETROの補助金(外国出願補助金)
都道府県の補助金
東京都知的財産総合センターの助成事業 外国出願に対してのみの助成のようです。
埼玉県産業振興公社 外国出願に対してのみの助成のようです。
Q:審査請求すべきなのか否かの判断のポイントは?
A:事業化の程度です。
この段階で移行すべきかの判断を迷う方がいると思います。
上記のように既に大変なご負担をした上に、
さらに、追加負担をすべきか悩んでいるのだと思います。
そのような場合、大変、私の心は痛みます。
そのような悩みを持たれるということは、事業化などが、
特許出願の時の予想や意気込みに反して、思ったように進んでいないということなのだと思います。
そのような時、私は、PCT出願時にお断りした方が、
お客様のためになったのではないかと、いつも苦悩するのです。
私は、お客様に損をさせたくないのです。
ただ、ここで追加負担をすべきかの判断基準は、
事業化の程度
その国で、事業化が進んでいるのであれば、大抵の場合は、
特許は価値がありますので、
追加負担(審査請求)をした方がいいことが多いです。
事業化が進んでいなくても、その可能性がまだあるのであれば、
同様です。
この機を逃してしまうと、特許出願が前述のようになくなってしまうからです。
競合の動き
競合他社が同じようなことをやってきている場合も、
同じく、審査請求をした方がいい場合が多いと思います。
次の負担までは通常1年稼げる(時間稼ぎ)
早期審査というものがありますが、
その特別な手続きをしない場合は、
通常、審査請求から実際の拒絶理由通知が来るまで1年かかっています。
つまり、この費用を使っても、次の投資までは、
早期審査を使わなければ1年の余裕を得られるのです。
その間の判断の期間を買うという考え方もできるのです。
何よりも情熱
以上、いくつかの視点・チェックポイントを申し上げてきました。
しかし、最も重要なポイントは、
出願人たるお客様の
情熱が今でもPCT出願時と同じようにたぎっていますか?
ということになってしまいます。
そうでないなら、ここで権利化をあきらめて、
追加負担をやめ、これ以上の出血を防ぐというのが、
最も経済原則に沿っています。
その場合、私は、結果的に必要のない特許を出願したことになり、
大変残念ですし、申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまいます。
なお、情熱がすべてということは、出願時にご案内していることの多い
下記のページにございます。
大企業に負けないぞ!中小企業・ベンチャー企業・個人発明家が特許出願する場合
Q:確実に特許にしてもらえるのですか?
A:大変申し訳ございません。審査官の判断なのです!でも全力!
そのような疑問・質問、当然だと思います。
しかし、大変申し訳ございません。
その判断は特許庁の審査官が行うため、確実に特許にできると申し上げることはできません。
この点については、特許になりますか?特許にする価値ありますか?との質問を参照ください。
しかし、私は断言できます。
元審査官として、
たくさんの審判を審査官・審判官と争ったものとして、
多くの侵害事件を扱ったものとして、
全力を尽くします!と
この点については、特に
関連ページ(基本的に出願時のリンクです。)
©弁理士 植村総合事務所 所長 弁理士 植村貴昭