特許における分割出願の役割・戦略的活用

植村 貴昭
この内容を書いた専門家
元審査官・弁理士
行政書士(取次資格有)
登録支援機関代表
有料職業紹介許可有

特許における分割出願の役割・戦略的活用

分割出願について説明いたします。

法律上は特許法44条に規定している制度でありますが、
その条文などは普通の弁理士さんのサイトであれば書いてあるため省略します。

そんなものは、正直、弁理士試験の勉強を始めたらすぐにかける程度のものだからです。
一応、特許庁の公式の特許の分割出願に関する資料をはります
これを読めば、制度については分かると思います。

前提知識1:分割出願とは分割ではなくコピー(複製)である

さて、分割出願についてまず理解してほしいことは、
分割出願は元の出願のコピー(クローン)であると考えるべきです。

分割出願の「分割」という言葉から、1つのものを、分けて、
それぞれ、半分ずつとかにするというイメージがあると思います。

しかし、それは間違いです。
(正確には、そのように分けるために制度が作られたと思いますが、
そのような使い方は、あまりにベーシックで、甘い使い方だと思います。)

全く同じものを作る、コピーをする制度が分割出願であると考えてください。

前提知識2:出願には複数の発明が含まれている

よく、特許出願には発明は1つであると考えている方がいます。
それは間違いです。

何が発明なのかは、審査官等が持ってくる先行技術によって決まるのです。
出願人(発明者)が考えるものが発明であるというものでは、
特許制度上は無いのです。

もしくは、出願人がその時々(出願時、審査時)にここが権利としてほしい
という部分が発明なのです。

つまり、固定のものではなく、主観的であり、
その状況によって変わるものなのです。

そのため、特許を出願する時に記載する、発明の詳細な説明に記載した様々な部分、
その時は別に普通の構成だと思っていたことが急に発明になることがあり、
そのような部分は実は無数にあるのです。

出願に含まれる複数の発明

前提知識3:同じ発明にも上位概念から下位概念まで複数のとらえ方がある

前提知識2では、特許出願した明細書には捉え方によって、
複数の発明が無数にあるということを書かせていただきました。

それだけでなく、その中の1つの発明であっても、その捉え方によって、
上位概念から下位概念まで区分けすることができ、
ここにも複数の発明があると考えられるのです。

そして、前提知識2の異なる発明と上位概念との組み合わせもあり得るため、
本当に、天文学的な数の発明がその中に埋まっているということになります。

その中から、出願人がその時々などに欲しいと思っている内容こそが、
審査を受けて登録を受けるべきものになるのです。

小まとめ:無数の発明が存在する

実は、特許出願には無数の発明が埋まっていることになります。

審査官(審判官)による審査

前述のように、出願人(発明者)は、
権利が欲しい発明を【特許請求の範囲】という部分で
記載して権利化を目指すわけです。

しかし、審査官(審判官)は、広い権利(使える権利)を与えたくないと考えています。

(この辺りは、審査官殿納得できません!特許拒絶査定不服審判 のページをご参照ください)

他方、出願人は、広い権利(使える権利)を取ろうとします。
ここに大きな利害の対立があります。

さらにいうと、審査官(審判官)は、
裁判で言うところの検察と裁判官の2つの役割を有しています。

このような役割を有している人が、

自らの考えに固着する可能性があること
権力を振り回す可能性があること
さらに、広い権利(使える権利)を与えたくないと思っていること

などを考慮すると、
使える特許を取るという作業がいかに困難なものか理解いただけると思います。

分割出願の役割1

以上の前提をもとに分割出願(コピー)には、以下の役割があるといえます。

(1)今の出願とは別の観点の別の発明の特許が欲しい場合に分割して、
その部分の権利化を目指す

(2)審査官(審判官)の抵抗が大きく、拒絶査定になってしまったときに備えて、
控えとしての役割。

(3)(2)と近いですが、まずは今の出願で審査官の抵抗が大きいので
まずは下位概念で権利をまずは確定しておき、
分割出願でより上位概念(使える特許)を取得することを目指すための分割出願

ということになります。

さらに、このことをより記載したページはこのページになります。
こちらもご参照ください。
地雷無限増殖攻撃

分割出願の役割2

特許の最も恐ろしいタイミングとは

のページでも書きましたが、
特許権でも第三者が最も安心できるタイミングは、
特許権の成立後なのです。

つまり、出願中の方が有利な場合が多いということです。

他方、登録査定になって特許になってしまうと、
権利が固定されて、同じような技術を使いたい第三者にとっては、
同じようなことをやりやすい環境になるのです。

そのため、出願中の状況を作り出すために、
分割して、その分割した新たな出願(コピー)は、
出願中というステータスを維持するのです。

このような状態では、前述の地雷無限増殖攻撃も可能ですし、

地雷移動攻撃

も可能です。
逆に言うと、特許査定とはこれらの攻撃を不可能にする、
恐ろしい処分であるともいえます。

まとめ

つまり、このように、1つの出願をいろいろ変化させて、
より包括的で強い権利の取得を目指す活動が分割出願ということになります。

問題点(デメリット)

ただ、問題点として、当然のことですが、
分割出願の費用が掛かりますし、審査官(審判官)とも揉めるので
私たちの費用も掛かってしまいます。

決して、たくさんの費用を出願人様からむしり取りたいからやっているわけではなく、
特許出願をしてもらったのだから、
本当に広い権利を取って、事業に役立ててほしいからやっているのです。

ただ、費用が掛かるということは、出願人様には当然負担なわけで、
だんだん、目線が厳しくなってくるということも当然あったりして、

日和って、権利を限定して(限定すれば、審査官(審判官)は、
使えない特許と思ってくれるので簡単に登録になります。)
しまおうかとの誘惑にかられるのです。

この辺りは、以下の「コインランドリ物語」をお読みください。

費用

費用としては、

① 特許庁出願費用 1.4万円
② 審査請求費用 15万円程度(請求項によって異なり、補助金がありやすくなることがあります。)
(審査請求期間の3年を経過して分割することが多いため、すぐに必要です)
③ 弊所費用 約10万円(税別)

が必要です。ただ、上記の理由より分割出願は効果が高いです。
また、別出願をするよりも弊所費用が大幅に安いため、この点でも効果が高いです。
(それでも、追加で費用が掛かることに違いはないですが。)

分割出願のできる時期・内容

原則

原則:補正のできる時期ならいつでも分割できます。

拒絶理由が来る前
拒絶理由が来た後はその応答期間内

であれば、問題なく分割できます。
(審判であっても同様です)

特許査定の後の分割

特許査定後30日以内の期間は、「補正ができる期間」でないため、
原出願の当初明細書記載事項まで戻ることができず、
分割直前の明細書が基準明細書になることに注意しなければならない。

拒絶査定不服審判の結果、特許査定の際にはできないこと、
注意が必要です。

特許査定(拒絶審決ではない)の後の分割

拒絶査定時には分割できます。

しかし、拒絶査定不服審判の後の拒絶審決時には、
分割ができません。

関連ページ

特許請求の範囲の重要性3(発明のポイントとは!)|特許要件

特許申請知識編

©弁理士 植村総合事務所 所長弁理士 元審査官 植村貴昭

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